2023-01-17

 三菱UFJFG・亀澤宏規の「金融プラットフォーム」戦略 「金融の枠を広げ、超えていく」

亀澤宏規・三菱UFJフィナンシャル・グループ社長




社員の意識改革に向けて


 改革の成果もあって業績は上がってきた。では今後、亀澤氏はグループをどういう方向に持っていこうとしているのか?

「金融の枠を広げたいし、枠を超えたい」─亀澤氏はこう言う。

 例えば今、グループの三菱UFJ銀行は「事業共創投資」に取り組んでいる。これは新産業・新事業創出に取り組むためにリスクを取っている企業に対して、共同で投資をしていく事業。

 すでに自動運転、フィンテック活用による「船員」のサポート、小売店舗のデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業に対する投資を実行している。

「融資業務の枠を超えて、事業リスクを一緒に取ろうと。エクイティを出すという意味では広い意味では金融だが、今までの枠を広げていく形」

 また、海外では20年12月からシンガポールで事業を開始した「Mars Growth Capital」を通じて海外のスタートアップ融資を展開。まだ利益が出ていないスタートアップに対して融資するという、従来の銀行にはなかった発想による融資。「今までの常識では難しいということで海外でやっているが今後、これを日本に逆輸入したい」(亀澤氏)

 さらに、21年秋に施行された改正銀行法で、銀行業務の規制緩和が進んだことによって「枠」が広がった事例もある。

 22年8月に100%出資の「MUFGトレーディング」を設立し、企業の在庫を一時的に買い取る事業を展開することを決めている。企業にとっては在庫負担が減り、資金を活用しやすくなる。企業のリスクを一部背負う形で事業を支援する。

 銀行・信託・証券という機能の中で、顧客にとって最もよいメニューを提供するという形で既存の枠を超える事業展開をすることはもちろん、これまでとは違う発想で新事業を生み出すという段階に来ている。

 だが、これまで銀行という、顧客の預金を預かる立場で「石橋を叩いて渡らない」くらい慎重とも言われた銀行員の意識を変えるのは一朝一夕にはいかない。

 そこで取り組んでいるのが「MUFG Way」という行動指針を定めた上でのカルチャー改革。その中で、自らの存在を再定義して生み出した「パーパス」(存在意義)が「世界が進むチカラになる。」というもの。

「みんな銀行、信託、証券などグループの会社に入っているが、それぞれなぜ、その会社を選んだのかという思いがある。その思いである『My Way』と『MUFG Way』を掛け合わせて、自分にとってのパーパスを考えることで、自然にお客様にために仕事をしていくという意識になる」

「『考える』というメンタリティが重要」と亀澤氏。そのメンタリティを引き出し、実際に新事業に結びつけるための取り組みが新規事業創出プログラム「Spark X」。

 グループ22社・580人が計650件の事業案を提案。22年11月に最終審査会を開催し、3チームが事業立ち上げに挑戦している。「彼らには異動してもらって、予算を付け、実際に事業を立ち上げてもらう」

 こうした取り組みで実際に成果を出すという成功体験が、カルチャー改革の鍵を握る。

 一方、マイナス局面だったが、MUFGのカルチャーが変わり始めたと思える案件があった。

 MUFGは22年に連結子会社のGlobal Open Network Japan、通称GO-NETジャパンの事業を停止した。

 この事業はMUFGが80%、世界最大手のコンテンツ配信網とブロックチェーン技術を持つ米アカマイ社が20%を出資して設立したGO-NETジャパンが進めていた。亀澤氏が副社長時代から関わってきた事業。

 ブロックチェーン技術を活用して、高速、高セキュリティ、低価格で決済やIoTインフラを提供する構想だったが、「少し時代が早すぎたところがあった」と亀澤氏。顧客が、このインフラに乗り換えるまでに至らなかったのだ。

 かつてであれば、社長が推進してきた事業を停止する判断は難しかったかもしれないが、今回は「1回閉じようと。また必要になった時にやればいい」(亀澤氏)という形で、早期に事業停止を決定。

 この痛い経験から得たものとして亀澤氏は「人材」を挙げる。「ここで鍛えられたメンバーが、次の案件をやる」(亀澤氏)。この「転んでもただでは起きない」という精神が、MUFGの文化を変える元になるかもしれない。

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