2023-04-07

三井住友銀行頭取・福留朗裕の「現場主義」経営 「用心しながらも楽観を忘れない」

福留朗裕・三井住友銀行頭取




「金利が付く時代」にどう備えるか?

 福留氏の銀行の経営を預かる立場としての姿勢は「cautiously optimistic」(用心しながらも楽観視している)というもの。「特に前段の『cautiously』の部分はしっかりメッセージを伝えていかないといけない」と話す。

 一方で「明らかにオポチュニティ(好機)はある。『撃ち方やめ』にはならない。お客様、マーケット、セグメント、セクターをきちんと選んでいけば、当然チャンスはある」と行内に訴えており、難しい状況下でも攻めの姿勢も忘れない。

 日本市場については「30年続いたデフレ脱却に向けた『分水嶺』を迎えている。日本単独ではできなかったが、今までの超低体温経済が少し熱を帯びてきて、モノに金利が付き、経済が活発化する世界に戻るチャンスが出てきた。銀行として、何とかこの流れをサポートしたい」と福留氏。

 2023年4月には植田和男氏を総裁とする日本銀行の新体制がスタート。当面は金融緩和を継続するものと見られるが、今後「マイナス金利」や「イールドカーブコントロール」(YCC、長短金利操作)といった政策を見直すようなことになれば、徐々に金利が付く世界に近づく。

 この「金利が付く時代」にはプラス・マイナス両面の影響が出る可能性がある。今まで「金利のない世界」で過ごしてきた企業、個人が果たしてどういう動きをするか。資産運用ではプラスに働いても、借り入れではマイナスに働くといった形で、影響は一様ではない。

「いずれにせよ大きな動きが出てくる。その時に我々には間違いなく、お客様のお役に立てるアドバイザリー機能がある。これまで溜めてきた力を発揮するチャンスだし、それを見逃さないようにしようと行内にメッセージを出している」(福留氏)

 今は「VUCA」(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)の時代と言われるほど変化が激しい。その中で問われるのは「敏捷性」(Agility)と「柔軟性」(Flexibility)だと福留氏。

 その意味で日本市場には法人、個人ともに可能性があると福留氏は見る。法人はこの変化の時代に自らの事業ポートフォリオを見直したり、「脱炭素」に向けた取り組みを強化しており、ここに銀行として機能を提供できるかが問われる。

 個人は、政府が「資産所得倍増プラン」を打ち出して以降「貯蓄から資産形成へ」の流れが強まる中、いかに資産形成をサポートできるかが腕の見せ所。

 これをデジタルと対面の「ハイブリッド」で行うというのがSMBCの戦略。「相続」など、対面でなければなかなか解決できないものは、より対面を強化する一方、デジタルで機能を提供すべきものは、思い切ってデジタルに振っていく。

 その「プラットフォーム」として23年3月から提供を開始したのが、個人向けの金融・決済のフルモバイルサービスを実現するスーパーアプリ「Olive」(オリーブ)。

 このアプリには銀行口座、カード決済、ファイナンス、オンライン証券、オンライン保険などの機能が一括で搭載されている。さらに1枚でキャッシュカード、クレジットカード、デビットカード、ポイントカードの機能を切り替えられる「フレキシブルペイ」という機能を持つ。これはビザワールドワイドとの共同開発で、世界初の機能。

「お陰様で、我々は銀行以外の関連会社も強い。この組み合わせで機能が提供できるのは我々しかいない。他社が真似しようと思っても数年はかかる。このアドバンテージを活かして、デジタルと対面のハイブリッドをしっかり進めていきたい」

 グループ全体で、この「Olive」を「金融サービスの新スタンダード」と位置づける。店舗のあり方も、このモバイルサービスと併せて考えていくことになる。このアプリから得られた顧客からのフィードバックを、いかに素早くサービスに反映していけるかも問われる。

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