2023-05-23

中前忠氏の訴え「銀行の貸出正常化、消費を伸ばすためにも金利が上がらなければならない」

中前忠・中前国際経済研究所代表




銀行の貸出を正常化することの意味

 ─ 日本は構造改革ができるかどうかの正念場にあると。前向きに捉えるなら、日本の個人金融資産は約2000兆円ありますが、この活用にもつながるというポジティブな面もありそうですね。

 中前 その方がはるかに大きいのです。2000兆円は負債を考慮に入れると、ネットで1600兆円くらいになりますが、この1600兆円にリターンがなかったものが戻ってくる。正常な状態になります。

 今、株価対策でNISA(少額投資非課税制度)に注力していますが、金利がきちんと付く状態になれば人々にも余裕が出てきて、リスクを取って株を買うようになります。一方でゼロ金利のままでは、株は博打に近いものになってしまいます。

 ─ 銀行など金融機関の今後をどう見ますか。

 中前 メガバンクなどは、足元の状況では正常な貸出ができないため、運用で稼がざるを得なくなっている。これを本業だけで稼げるような仕組みにしなければいけません。

 特に中小企業の多くは直接金融で調達できません。ですから本来、そこにどんどん貸出できるような仕組みをつくらなければならないのです。そして、その基本として消費が増えなければなりません。

 ─ 消費が増え、それで賃上げができる環境を整えることにつながると。

 中前 ええ。消費が増えれば企業の売り上げが伸び、投資も増えてきます。そうすれば銀行の貸出対象も増えていきます。


銀行が本業の融資 利益を出せるには何が…

 ─ 銀行が本業の融資で利益を出せる時代にする必要があると。その道筋は?

 中前 今、世界ではグローバリゼーションが後退しつつあります。これまで企業が多国籍化し、自国に投資せずに海外で生産し、逆輸入していました。企業の利益は上がりますが、国内が弱っていく。

 これは問題だということで、米国を中心に自国に回帰する流れが起きています。ただ、1国ではサプライチェーンが構築できませんから、日本とも組んで、ある種の「ブロック化」を図ろうとしている。

 いずれにせよ、日本で設備投資が増える条件は消費市場が伸びることです。日本から米国に輸出するだけという投資は成り立ちません。今回の危機を契機に、いかに日本の消費が増える状況をつくるか。金利が上がるというのはそのひとつです。

 もうひとつは消費税をやめることです。それによって購買力が増えます。消費税をやめることで財政赤字はどうなる?という声も出ると思いますが、その時には財政支出のカットと法人税、所得税を増税するのです。

 貿易赤字を減らすには財政赤字も減らさなければなりません。貿易サービス収支は、財政赤字と民間貯蓄の合計がプラスになるか、マイナスになるかを見る目途ですが、まず財政支出を大幅にカットする必要があります。その意味で、この危機は大きなチャンスでもあります。例えば昨年秋の英国を見ても、180度転換しました。

 ─ なぜ、日本が英国のような手を打てないのか。

 中前 それは政治のリーダーシップの問題だと思います。リーダーが問題を正しく整理し、把握しなくてはいけません。

 日本では、社会保障費を増やさなければいけないと言われますが、金利所得が増えれば社会保障費でも大きく削れる部分が出てきます。

 また、国際収支の改善を目指す場合、日本のように国債の大半を日本人が保有していれば、利払いがいくら大きくても、それは日本に残ればよいので、金利が上がって財政赤字が増えることは気にしなくてよい、という点は重要です。

 そこで、財政赤字を解消させるには、大幅な財政支出のカットが先ずなくてはなりません。増税や社会保険料の引き上げより、こちらが先ずこなくてはいけない。消費税の廃止分を法人税と所得税の増税で賄うと考えていけばよいと思います。

 ─ 面白いアイデアですが、消費税廃止には異論もありそうですね。

 中前 そうですね。消費税は安定財源、法人税は様々な控除もあって不安定な面があります。ですから、この控除をなくして、法人税を付加価値税化する。ただ、消費税をやめるという議論は日本においては難しいのも現実ですが、いずれにせよ、金利が上がって消費税がゼロになれば消費は間違いなく増えます。

 もうひとつ、こうした施策を実行する時は円安が進んで、インフレも相当進行しているはずです。そこで、消費税をやめればインフレはたちまち10%下がります。

 こうした策は、平常時では難しいですが、日本が危機的状態になれば通る可能性は高まります。危機をチャンスと捉えて使わなければいけません。

 ─ この問題は「国」とは何かを考えさせてくれます。

 中前 ええ。やはり企業をひきつけられる国が勝つということ。多国籍企業をどう国内に回帰させるか、あるいは海外の多国籍企業を日本にひきつけることができるかが問われます。

 今回の危機では、様々なことを考えなければ、いい解答は出てきません。今まで見落としていたこと、あるいは意図的に無視されていたことを浮かび上がらせることができたところが勝つことになります。

 日本企業はコーポレートガバナンスを言う前に、日本企業として、日本にどういう貢献ができるかを考えるべきです。

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