2023-05-23

中前忠氏の訴え「銀行の貸出正常化、消費を伸ばすためにも金利が上がらなければならない」

中前忠・中前国際経済研究所代表




政治には何を改革するかが問われている

 ─ 近年「ジョブ型雇用」など、働き手が自分のスキルを生かして職を探す時代になったと言われます。こうした働き方改革は日本にどういう影響を及ぼすと見ますか。

 中前 そういう働き方を採用できる企業は全体の数%だと思います。それよりも、職業訓練を大々的に実施するなど、全体をどう引き上げるかが大事です。一部の企業が強い、弱いといった動きに惑わされてはいけないと思います。

 日本は生産性論争にしても、ミクロの企業の生産性を上げることばかり考えて、国全体を考えていません。企業が数字上の生産性を高めたければ首切りをするのが一番簡単です。

 しかし、それでは首切りで失業した生産性ゼロの人が増えますから、国全体としては生産性が落ちる。そういうマクロ政策には大きな問題があります。

 ─ その意味でも一部の企業だけでなく、中小企業も含めた全体を考える必要があると。

 中前 戦後の日本は全体を考えてきました。ただ、戦後は成長率が高いこともあり、常に人手不足でした。そこで農村から人を連れてきて、教育してという形が成り立っていました。

 しかし、成長が停まった時に人が余ってきて、「ゾンビ企業」に吸収されていきます。これでは生産性は上がりません。今回、仮にゾンビ企業が市場から退出すると、数百万人単位で「人」が余ってきます。その人達にどう職業訓練をするかが問われます。

 例えば毎年200万人ずつ、人を集める。都道府県ごとに分けて、給与を払いながら1日の半分の時間は農業、林業、漁業に従事し、残りの時間は必要な職業の技術の取得に充てるというやり方はどうかと。

 この問題は、本当にやるとしたら、それくらいの規模で考えるべき問題です。職業を移動する時に、個人にまかせてパートなどでしのがせていたら、技術の習得はできません。ですから国として給与を払いながら、職業の移転を促していく。

 ─ 財政出動も伴いますが、そうしたことのために国債を発行するといった構想力も求められますね。

 中前 そうです。今の政治が考えているような政策では、永遠に日本が抱える課題は片付きません。政府は「新しい資本主義」を掲げていますが、新しいか新しくないかではなく、何を変えるか、が問われているのです。(了)

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