─ なるほど。入山さんはかねてから「両利きの経営」を提唱していますが、改めて、両利きの経営とは何なのか説明してもらえますか。
入山 要するに、結論から言うと「知の探索」と「知の深化」の両方をやるということです。
イノベーションの第一歩は新しいアイデアを生み出すことです。では、新しいアイデアがどうやって生まれるかと言うと、知と知の組み合わせなんです。それも自社の知と異業種の知を組み合わせることで、新たなビジネスモデルやサービスが生まれてくる。探索というのは遠くのことを幅広く見て、異なる領域の知を探してくることです。
ところが、人間は認知に限界がありますから、放っておくと自分が認知できる目の前のことだけを見てしまう。だからこそ、遠くをたくさん見る必要があるんですね。
─ 人はどうしても目の前のことで精一杯になりがちですからね。
入山 仰る通りです。実際に遠くをいっぱい見るのはとても大変です。だから結局、無駄なことのように感じてやらなくなるんですね。
一方の深化というのは、儲かりそうな知を深掘りすることで知を磨き、商品やサービスの改善につなげることです。こうした知をいっぱい組み合わせて、ここが儲かりそうだと思ったら徹底して、深掘りすると。深掘りして、効率化して、磨き込んで収益化していく。わたしはこの探索と深化のバランスが重要だと思っていまして、それを両利きの経営と呼んでいます。
ただ、どうしても企業は探索がおろそかになりやすい。無駄なことをしているように感じてしまうので、深化だけをやろうとするんですね。深化すれば短期的には目の前の収益がアップしていいかもしれませんが、長い目で見るとイノベーションを起こすための探索をしていないから、結果的にイノベーションを起こすことはできない。それが日本の現状だと思います。