2023-08-21

日本総合研究所・西沢和彦理事の直言「現金給付の児童手当に偏りすぎ。子育て支援であって少子化対策ではありません」

西沢和彦・日本総合研究所理事




財源は社会保険料よりも税を中心に

 ─ 政府の中でこうした問題意識は指摘されないのでしょうか。

 西沢 事務局である行政の中には、現金給付の拡大は適切ではないと考えている方も多いはずです。それが政治の場になると、少子化対策の名の下に、お金を配ることが前面に出てきてしまう。

 民主党政権時の子ども手当には所得制限がなく、自民党政権に復帰し所得制限がつきました。ところが、これが都市層の住民から少し評判が悪かったようです。そうすると都市選出の議員から、元に戻してほしいという声が出てくる。

 ─ 産業界はどう評価していますか。

 西沢 総じて産業界は児童手当の所得制限撤廃には反対でしょう。社会保険料ではなく、「財源は税中心で」と言っているのです。

 令和臨調も税を中心にと言っていますし、多くの研究者も「社会保険料を使うのは悪手で本来は税だ」と主張してきました。

 ─ 本来の社会保険制度の趣旨とは違うということですね。産業界が社会保険料増に反対し、税を中心にとしつつ、消費税と特定しないのはなぜでしょうか。

 西沢 産業界はこれまで法人税を下げるよう要請してきた経緯があります。その一方で消費税増税とは言いにくい面もあるのではないでしょうか。

 ─ 大企業が潤って、一般市民の負担が増えるのは不公平だという話になりかねない。

 西沢 経済学の理論では、法人税を増やすと価格や賃金に転嫁されるので、最終的には消費者、労働者の負担増になると考えますが、一般市民はそう考えません。法人が負担するのでいいではないかとなります。理論と通念のギャップがあります。

 消費税は逆進性が指摘されますが、所得税や社会保障給付と組み合わせれば、そうした逆進性も緩和できます。

 ─ 今回の少子化対策にはこうした反対の声も少なくありませんが、政治を動かすには至りません。

 官僚には政治に意見を言う人はいなくなったのでしょうか。

 西沢 今の官僚は政治家の賛同を得られる範囲での政策を探さざるを得ないのではないでしょうか。

 本当は児童手当の所得制限撤廃や増額についても、止めるよう進言する人がいていいはずなのです。そうすれば政権も、3.5兆円の財源もないのに年末までに探すという隘路にはまらなくてもすむはずです。

 ─ では、政治家の方には財源を顧みないまま子育て予算を増やすことに反対する人はいないのでしょうか。

 西沢 かつての「消えた年金記録問題」や後期高齢者制度を創設した際の「姥捨て山」批判などがあって、社会保障に手を付けることそのものが「タブー」になってしまっている感があります。

 ─ 以前のような、いわゆる「厚労族」はいないのですか。

 西沢 いなくはないのでしょうが、以前のように、財務省と厚労省の両方に顔が利く方は思い浮かびません。

 かつて民主党政権が子ども手当の所得制限を撤廃した時、自民党の政治家が「愚か者」と言って痛烈に批判しましたが、同じことを今自民党がやっています。そのことを批判する声はほとんど聞かれません。

 自民党は、先ほどお話ししたワンオペの解消や父親の育児参加といった考えからは距離があるのではないでしょうか。

 ─ そのあたりの価値観の変化が起きていない。

 西沢 見えにくいですね。例えば、こども未来戦略会議には、若い女性は数人しかいません。あとは男性や各界の重鎮で構成されています。

 子どもを産むのは主に20代30代の女性ですから、その人たちの意見を主に聞かないとだめだと思います。

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