避けて通れない税負担
─ 少子化対策のテーマでも、本質的には政治のあり方が問われてきます。
西沢 政治は本来、国民負担の話からは逃れられません。
消費税率の引き上げは2回先延ばしにされ、2019年に10%になりました。予定通り15年に実行していれば、20年のプライマリーバランス黒字化は、そこまでにもう1回社会保障と税の一体改革をすることで達成できる、というのが政策関係者のコンセンサスだったのです。が、引き上げは結局19年に延びてしまい、議論ができなくなってしまいました。
今回の少子化対策の財源についても、増税を封印してしまい、手当てできないまま単に年末まで半年先送りしただけになってしまいました。
─ 西沢さんのような社会保障の研究者と政府とのかかわりに変化はありましたか。
西沢 社会保障に関しては、2000年までは社会保障制度審議会という会議体が総理府の下にありました。メンバーは政治家、官僚、研究者です。それが経済財政諮問会議発足とともに廃止になってしまいました。非常に残念なことだと思います。厚労省とは別の場で社会保障を議論していたので、厚労省にものが言えたのです。
今、官僚は、「現在の条件で、できることをやる」という思考回路になっていると思います。
とくに社会保障は、下手をすれば社会的大問題になってしまいます。そういうリスクを考えると、「できる範囲のことをやっておこう」という思考になってしまうのでしょう。
官僚について私が思うのは、民主主義を育てようとしていないのではないかということです。
─ それは、主権者である国民の判断を仰ぐのではなく、自ら決めているということですか。
西沢 そうです。国民に情報を提供して国民に判断してもらう。判断が正しいときもあれば、間違うときもある。それを繰り返すことによって民主主義は成長していくと思うのです。ところが彼らは自分たちの考えに国民を従わせようとしているように感じます。
官僚はたくさん情報を持っているのですが、出てくるものがものすごく複雑で、私たちが見ても直感的にパッと理解できるようなものは多くない。それでは判断できない。もっと分かりやすく出してほしいですね。
先日、将来人口推計を、統一地方選の後に公表しました。あの公表時期は意図的だと思います。少子化対策をやっているときに、こんなに人口が減る見通しでは格好悪いということだったのでしょう。本当はああいう推計こそ速やかに出して国民の議論の材料にしなくてはいけません。
─ 経済財政諮問会議の存在感はどう感じていますか。
西沢 毎年発表される「骨太の方針」の、発足当初と今のものを読み比べてみると分かるのですが、当初はシンプルで一人称で書き下しています。
今は「陣取り合戦」のようになって、とにかくそこに盛り込もうと、いろいろな人が詰め込んでいます。たかだか45ページのペーパーに、「注」が313個もあるのです。それを錦の御旗にして自分たちの政策を推し進めようとする。
骨太の文書は諮問会議が一度情報を整理し、国民が読める形に書き直した方がいいと思います。