2023-08-28

【政界】勢いづく日本維新の会 野党第一党を狙うが失速の懸念も

イラスト・山田紳

日本維新の会の勢いがとまらない。「全国政党化」を目論む中で脆弱だった東北での足場固めも進む。この秋にも衆院解散・総選挙があると囁かれているだけに、維新執行部は強気の言動を繰り返している。立憲民主党や共産党などの野党だけでなく、与党の自民、公明両党とも〝ガチンコ対決〟の構えだ。さながら現代版「大阪夏の陣」。秋まで勢いは続くのか、それとも失速してしまうのだろうか。

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「第2自民党」で波紋

「地方議員が空白だった地域に議員が誕生することは国政選挙にとっても、もちろんプラスだ」

 日本維新の会幹事長・藤田文武は8月2日の記者会見で、そう語った。7月30日に投開票された仙台市議選(定数55)で、擁立した新人5人の全員当選を果たした。支持基盤の弱い東北エリアでの躍進は次期衆院選での「全国政党化」実現に弾みになる。

 藤田は記者会見で「地方議会はどこも古い体質で、様々なしがらみの中で政治力学が決まっている。それをぶち壊してくれるのは日本維新の会だと好感を持って受け入れられているのだろう。仙台のみならず、各地で感じる」とも強調した。

 日本維新の会は昨年3月、政権奪取に向けた「中期経営計画」を発表している。2022年7月の参院選での議席倍増が〝ホップ〟で、23年4月の統一地方選で地方議員600人以上を確保することが〝ステップ〟と位置づけた。そして、次期衆院選での「野党第一党」を〝ジャンプ〟とする具体的な目標を掲げている。

 ホップ、ステップはクリアしたため、次期衆院選が最大の焦点となる。ジャンプを勢いづかせるためにも「大阪から始まった維新の改革を全国に拡げていくためには地方組織の強化は必須課題」だった。

 日本維新の会は現在、東北の衆院議員は21年10月の前回衆院選で復活当選した早坂敦しかおらず、事実上の「空白」エリアだった。今回の仙台市議選で躍進したことから、党執行部は今春の統一地方選の勢いを維持しているとみて、各地に頻繁に足を運び地方議員らとのコミュニケーションを重ねることで、地方組織を固めていく方針だ。

 主要な報道機関の7月の世論調査で日本維新の会の政党支持率をみると、いずれも野党第一党の立憲民主党を上回っている。NHK=5.1%(立憲民主党5.1%)▽朝日新聞=7%(同4%)▽毎日新聞=16%(同9%)▽読売新聞=9%(同4%)―といった数字だ。

 次期衆院選での比例代表の投票先を尋ねても同じ傾向となる。30%前後ある自民党には大きく引き離されているが、ホップ、ステップに続くジャンプ(野党第一党)もクリアできそうな流れが続いている。

 代表の馬場伸幸は強気な言動を繰り返す。7月23日のインターネット番組では「第1自民党と第2自民党との改革合戦が政治を良くする。立憲民主党がいても日本は良くならない」と語った。共産党に対しても「日本から無くなったらいい政党。言っていることが世の中ではありえない」と切り捨てた。

 これには立憲民主党代表の泉健太は「維新は党名を『第2自民党』に変えた方が分かりやすい」と反発。共産党委員長の志位和夫も「第2自民党では与党第2党になるだけだ」と批判し、「無くなったらいい」発言の撤回を求めた。

 それでも馬場は、発言の真意を問われると「政治家として信念、理念を持って発言している」と語る。


自公とも全面対決

 日本維新の会がターゲットとするのは野党だけではない。自民党と連立を組む公明党とも全面対決する構えをみせる。

 これまで看板政策の「大阪都構想」を実現させるためには、住民投票に賛成してきた公明党は必要な存在だった。ただ、今春の統一地方選で日本維新の会が大阪府議会、大阪市議会ともに過半数を獲得したことで状況は一変。公明党への配慮から候補者擁立を見送ってきた衆院大阪3、5、6、16区と兵庫2、8区の関西6選挙区に候補者を立てることを決めた。

 党内で議論を重ねた結果だとされるが、次期衆院選で野党第一党を奪取するには、全国に289ある小選挙区すべてに候補者を立てることが必要で、公明党との協力関係も「清算」することは避けられないと判断した。

 昨年夏の参院選で、公明党は「比例で800万票獲得」という目標を掲げたものの「618万票」にとどまり、組織力にもかげりがみえることも決断を後押ししたという。

 公明党は「いま維新は非常に勢いがあるから厳しい戦いになる。我々はいま政権与党にいるからこその政策実現力をしっかりと訴えて、勝利を期していきたい」(幹事長の石井啓一)など受けて立つ構えだが、勢いのある日本維新の会には警戒感が強まる一方だ。

 公明党だけでなく、自民党も危機感を募らせている。先の衆院選では、大阪に19ある小選挙区のうち15を日本維新の会に確保され、「全敗」したからだ。残る4つは日本維新の会と住み分けをした公明党が獲得している。

 このため、日本維新の会に圧倒される大阪を立て直そうと「大阪刷新本部」を立ち上げ、次期衆院選の候補者を公募で選び直すという異例の対応に出た。大阪を地盤とする元議員らからは不満、批判の声があがり、党本部に幹事長、茂木敏充を訪ねて直接抗議したが、公募の決定は覆らなかった。

 茂木は8月2日、公募した10の小選挙区のうち、8つの小選挙区の立候補予定者を発表した。新人は会社員の大辻沙耶(11区)やヒット曲『無錫旅情』で知られる演歌歌手・尾形大作(18区)ら5人。3人は前回衆院選に立候補し落選した元職が再任された。

「人が変われば新しくなる面もあるが、人間ですからやはり自分が変わるということもあると思っている」。茂木は強調したが、狙ったようなイメージ刷新にはつながらず、日本維新の会にどこまで対抗できるかは不透明なままとなった。

 日本維新の会は安倍晋三、菅義偉両政権とは蜜月関係にあったが、岸田文雄政権になると疎遠になっている。岸田政権は現在、マイナンバーカードのトラブル対応などで逆風にあり、性的少数者(LGBT)への理解増進法の対応を巡っても「岩盤保守層の自民党離れが進んでいる」(自民党中堅)とされる。日本維新の会が保守層の受け皿になる可能性が高く、今後、自民党との溝はさらに広がりそうだ。

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