日本の小児医療における「心の診療」の課題
─ 一方で今、河北さんが感じている日本の医療における課題は何だと思いますか。
河北 先日、厚生労働省保険局長、医療課長宛に、公認心理師が行うカウンセリングを選定療養費の対象とするよう要望してきました。子供の診療に関して、もう少し社会保険の中で考えて欲しいという主旨です。
これはまさに「目に見えないもの」なんです。日本では目に見える体の病気については、小児科医が一生懸命診ていますが、目に見えないいろいろな変化に対して非常に弱い。
子供の成長段階は新生児期、乳児期、幼児期、学童期前半と後半、思春期、青年期とありますが、病気はどう変化するか。
新生児、乳児、幼児、小学校の前半くらいまでは、ウイルスの感染など、ちょっとしたことでお腹が痛くなるといった体の病気が多くあります。
ところが、その時期を過ぎると体の病気は激減します。その代わりに摂食障害など、「心の揺らぎ」のような症状が増える。それを後発性心理障害といいます。しかし、それに対応する小児医療はほとんどないというのが現状です。
─ 欧米には、そうした医療があるわけですね。
河北 あります。日本では体は診察できるけれども、「心」を診察できていないのです。
結局、なぜ子供に医療費がつかないかというと、高齢者への医療費が増えるからなんです。コロナ後の高齢者医療は変化せざるを得ないと見ています。救わなければならない状態の人は救う一方、そうではない人については自然の死を迎えるような医療が必要になるだろうと考えています。
例えば、認知症になって、そこに脳血管障害が加わったら、患者さんは寝たきりで、我々にできることは限られます。ご本人も意識がない状態で、それを延命する医療をやってきたのが、これまでの日本です。今後はそこにお金を使うのではなく、死を迎えるまで過ごす終生期の医療が必要だと思うんです。
─ 家族の中で面倒を見ることができないという人も増えていますね。
河北 それでも介護離職が再び増加傾向にあります。高齢者の介護のために、若者達が離職してしまうというのは社会問題だと思うんです。この課題に今後、どう対応していくか。
先程、看護学校が閉鎖された話をしましたが、いわゆる「エッセンシャルワーク」の人達を、今後社会の中で確保できるかどうかという課題もあります。
コロナ禍で外国の人達が日本に来るのが難しくなりましたが、結局はエッセンシャルワークに外国人ばかりを当てはめてしまった。これを日本人でも一生懸命、生きがいを持って働ける環境をつくらなくてはいけません。
─ 看護師になる人も減少しているんですね。仕事が重労働だからですか。
河北 今は2交代、3交代で休めるようになっていますが、それ以上に魅力がないんです。今の若者達は、見知らぬ高齢者のお世話をするような仕事に就きたくないんです。そこにどう価値を持たせるかが課題です。
今、看護師を1人採用するのに紹介会社に払う経費が80~100万円、介護人材には約120万円かかります。それを外国人に委ねようとしてきたのが日本です。そこには最新のテクノロジーを使って、働く人の負担を減らす仕組みを導入することが必要です。