2021-03-13

【経済の本質を衝く!】BNPパリバ証券・河野龍太郎「格差時代の税制改革のあり方」

景気回復が長期化した2000年代半ば、小泉純一郎首相は、在任中に消費増税は行わないと明言した。ただ、社会保障給付の膨張を放置したわけではなかった。厚生年金制度や後期高齢者医療制度の改革を進め、被用者の社会保険料の引き上げで対応した。政治的には反発の最も小さい被用者に負担をお願いしたのだが、それは日本経済に意図せざる大きな影響を与えた。

 90年代末以降のグローバル競争の激化で、企業は人件費抑制のため、正規雇用を非正規雇用に代替し始めていた。社会保険料の引き上げは、企業にとり人件費負担のさらなる増加をもたらす。これが生産拠点の海外シフトや非正規雇用への代替を加速させた。消費増税で対応したのなら、仕向け地課税であるため輸出の際に還付され、企業の競争力には影響しなかったはずだ。

 非正規雇用は今や雇用の40%を占める。2010年代半ばに完全雇用が訪れ、非正規雇用の処遇も多少は改善されたが、消費回復は乏しかった。不況期に調整弁となることをおそれた非正規雇用が増えた所得を消費ではなく、貯蓄に回したのだ。失職で社会保険料が払えなくなれば、年金や健康保険などセーフティネットが失われることを懸念したのだろう。実際、コロナ危機で削減されたのは主に非正規雇用だった。

 さて、2010年代のアベノミクスでは、法人税減税が繰り返された。国内の企業立地や設備投資の増加が期待されたが、結局、法人税切り下げ合戦が繰り返されただけで、ほとんどの国で投資は増えず、法人税収が減っただけだ。さらに、日本では、法人税減税と消費増税がセットとなっていた。消費税は付加価値への課税であり、付加価値は労働所得と資本所得からなる。それゆえ、法人税減税と消費増税
の組み合わせは、事実上の労働所得課税の強化となる。完全雇用で消費が回復しなかったのは、労働所得課税の強化も関係していたのだろう。

 経済格差の時代であることを考えると、パンデミック危機の財源を含め、今後の税制改革では、資本課税を検討する必要がある。ただ、同時に競争力にも配慮する必要がある。良い方法はないのか。

 一つ考えられるのは、被用者の社会保険料の引き下げと消費増税の組み合わせだ。前者は事実上の労働所得課税の軽減であり、後者は前述した通り、労働所得と資本所得への課税であるため、その組み合わせは資本課税の強化となる。ただ、消費税は輸出の際に還付され、競争力に影響しないのは触れた通りだ。また、低所得の現役世代にとり社会保険料の引き下げは恩恵が大きい。高齢者には負担をお願いするが、そもそも困窮する現役世代がゆとりのある高齢者の社会保障の負担を賄っていたことが近年の問題だった。もちろん、困窮する高齢者へのサポートは行う必要がある。

 従来と同じやり方では、社会保障や財政のみならず、経済そのものがもたなくなる。

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