2023-12-08

GMOインターネットグループ熊谷正寿の「インターネット革命後半の主役は生成AI」

熊谷正寿・GMOインターネットグループ代表

「生成AI(人工知能)は人の格差が広がるツール。言ってみれば、サルと人間くらい格差がつくツールです。だから、AIはものすごく真剣に取り組まないとえらいことになります」とGMOインターネットグループ代表の熊谷正寿氏。インターネット元年といわれる1995年にインターネット事業に参入して30年近くが経った。歴史的に、1つの産業革命の期間は約55年として、「今は折り返し地点」という熊谷氏の時代認識。そして、「生成AIがインターネット革命の後半の主役になる」と見て、「AI活用No.1企業グループ」という目標を掲げる。1991年に28歳で起業し、上場会社10社を含む106社に及ぶ“インターネット集団”をつくり上げた熊谷氏は、「自分の目標とは大きく乖離していて、まだ100分の1位です」と語る。内外の環境変化が激しい中で、緊張感を持って臨もうと、コロナ禍が一段落した2023年2月、社員の勤務体系を「原則出社」に切り換えた。リモートワークを否定するものではなく、「互いに目を見て話をすることによる決定力、スピードを大事にしたい」と熊谷氏。生産性向上に向けての挑戦が続く─。


インターネット革命の折り返し地点にあって…

「すべての人にインターネットを」─。この言葉を掲げて、熊谷正寿氏(1963年=昭和38年7月生まれ)がインターネット事業に参入したのは1995年(平成7年)のこと。

 インターネット元年とされるのが1995年であるから、熊谷氏の行動はまさに迅速。1991年、28歳の時に情報通信領域で起業していたが、それまでの事業を止めての参入であった。

 その時の気持ちはどうだったのか?

「30年前にインターネットと巡り合いまして、今の会社を興しました。それで営業を開始したのですが、まさに当時は誰も、どなたもインターネットが産業革命を起こすなんて信じてくださらなくて、孤軍奮闘していた感がありました。振り返ってみると、自分の予想が当たる結果となりました」と熊谷氏は語る。

 熊谷氏がGMOインターネットグループを中核として、育て上げた企業は計106社にのぼる(内10社が株式上場会社)。

 起業から32年余が経つ今、どのような心境であるか?

「これはラッキーだったと。素晴らしい産業と、素晴らしい仲間との出会いがあったから出来たんだと。それと、素晴らしいお取引先、お客様と巡り会えたから今日がある。ですから、ラッキーだったし、感謝しかないというのが今の気持ちです」

 熊谷氏は、インターネットが人々の生き方・働き方にも大きな影響を与えているとして、産業革命という言葉を使って語る。

「産業革命であることは間違いなく、過去、産業革命は平均すると55年続いております。そういう意味では、2022年が折り返し地点なんですね。うちがインターネット事業に本格参入したのは、『Windows95』と同じ1995年。それで1995年を起点に計算すると、55割る2は27.5年なので2022年の半ばがまさに折り返し地点ということになります」

 熊谷氏は、時計を引き合いに、「24時間の時計に例えると、ちょうど今が正午の12時なんですよね」と語る。

 つまり、これからが自らの事業としても、また産業革命という見方の上でもまさに正念場ということである。

 グループの中核会社、GMOインターネットグループは、コロナ禍でも順調に業績を伸ばし、2022年12月期まで14期連続の増収増益を果たしている。

 22年12月期は売上高約2456億円、営業利益約437億円。コロナ禍前の2019年12月期は売上高約1961億円、営業利益約252億円であったから、コロナ禍にあっても、稼ぐ力を高めてきたと言える。

 2023年12月期は市場の見方で、売上高約2600億円と増収だが、営業利益は約400億円で小幅減益。暗号資産事業が伸び悩むが、主軸のネットインフラ・ネット金融事業が期待でき、24年12月期は増収増益になりそうだ。

 グループ内には、中核のGMOインターネットグループよりも株式の時価総額が上回る会社も登場。GMOペイメントゲートウェイがそれで、同社は消費者向けEC(電子商取引)企業に決済処理サービスを提供している。同社の時価総額は約6584億円(23年11月27日現在)で、親会社のそれ(約2612億円)を上回っている。

 GMOペイメントゲートウェイは23年春に株価1万2000円台を付けていたが、10月には6000円台にまで下落。最近は8600円台にまで回復。

 そうした紆余曲折を経ながらGMOインターネットグループは成長、発展の道を歩き続けているわけだが、熊谷氏はこれからが成長投資の正念場だとして、「人への投資」に注力したいとする。


人づくりのためにも成長

 熊谷氏は2023年7月、60歳を迎えた。106社にのぼるグループ会社の経営は各企業のトップ(社長)に任せ、自らはグループ代表としてガバナンス(統治)を担う。

 人生100年時代と言われるが、熊谷氏は「わたしも人生の後半に入ってきましたので、これからも感謝の念を忘れずに、多くのお客様、株主様、パートナーの仲間の皆様に恩返しができるように、インターネット産業のより一層の成長、拡大に貢献していきたいと考えています」という気持ちを語る。

 アジアでの事業拡大など、グローバルにも目を向けていて、内外でのさらなる成長を追っていくには、「優秀な人材の獲得と、既有のパートナーの活性化を図っていきたい」とする。

 熊谷氏は『STEAM人財』の獲得に注力。STEAMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、そして美術・文学・哲学・歴史などのリベラルアーツ(教養)を包括したArtsにMathematics(数学)を加えた造語。この5つの分野に長けた人財(人材)を、「最高の年収で採用しよう」というもの。

 人づくりを進める上で、7400人の集団を引っ張るリーダーとしての使命感である。

「自分自身に、まず夢がありますし、それを維持するために運動、栄養、睡眠、基本的な人としてごく当たり前の摂生ですね。ごく当たり前のこととして、このモチベーションの維持を図ります」

 コロナ禍やウクライナ危機、パレスチナ危機と、世界全体が混沌とする中で、経営トップとしての〝平静さ〟、さらに言えば、〝心の安定・安寧〟をどう求めているのか?

「わたしにとって、精神安定剤は成長し続けることで、ベンチャーにとって成長が唯一の癒しなんですね。だから、われわれにとって成長が止まることが一番辛いんです」

 熊谷氏は、成長していることが「一番の癒しであり、次なるモチベーションのエネルギー、燃料になるんです」と答える。


コロナ禍が一段落して『原則出社』に転換

 熊谷氏は、今回のコロナ禍をどう捉えて仕事に臨んだのか。

「コロナ禍は確かにネガティブに考えたら、世の中にとって災いだったのかもしれません。しかし、同じ事でもポジティブな面を見るのか、ネガティブな面を見るのかで、物事の見え方は変わってくると思うんです」

 同社はコロナ禍を迎えるや、日本で最も早く在宅勤務を導入。リモートワークと出社型のハイブリッド勤務で臨んだ。

「サイバー空間で出来る事が拡張した」という判断で、ハイブリッド型の働き方を即実行に移したのである。

 そのGMOインターネットグループが、コロナ禍が一段落した2023年2月、社員の勤務体系について、『週3出社・週2在宅』という働き方から『原則出社』にした。これまた迅速な決断であり、産業界全体にも大きな影響を与えた。

「わたしどもの規模の会社としては、一番手ぐらいで早く、コロナになったタイミングで在宅勤務を行い、一番の効果を実感しました。それをきちんとアンケート調査でも把握して、最終的に出てきた結果は、やはり出社のほうがいいと。これは、リモートワークを否定するものではなくて、計画的に武器として使うなら、これ以上のものはないわけですね」と熊谷氏は切り出し、次のように続ける。

「わたしが否定しているのは無秩序なリモートワークです。何か権利を主張するためのリモートワークみたいなことになると、企業の生産性を大きく下げることになりますし、武器として計画的に使えるリモートワークは、パートナー(従業員)のQOL(生活の質)を上げ、最終的に生産性アップにつながります。そういうことで、今は出社ありきは正しいと思っています」

 社員同士、あるいは社員と取引先とで、互いに目を見て、話をすることで、物事の決定力、スピードは違ってくるということ。

「はい、組織は日々戦っているわけですから、(原則出社は)組織にとって、大きな差別化の要素になると思います」と語る熊谷氏だ。


ネット革命の後半は「生成AIが主役に」

 インターネット元年の1995年に、熊谷氏がインターネット事業に参入して30年近くが経った。1つの産業革命のインターバル(時期)が約55年続くとして、今、折り返しに入ったところ。では、後半の道筋をどう描いていくのか?

「わたしは、生成AIがインターネット革命の後半の主役になると思います」と熊谷氏は、グループの社員に対して、「生成AIをフル活用して生産性を上げよう」と呼びかける。

 生成AIは、米・オープンAI社(非営利組織)が2022年11月に公開した『ChatGPT』で一気に世界中に浸透。高度なAI(人工知能)技術を使って、まるで人同士でやっているような自然な会話が出来るチャット(会話)サービス。

 この『ChatGPT』は、リリース後わずか2か月で1億人のユーザー数を獲得、世界中を驚かせた。大変な人気に、米マイクロソフト社もオープンAIに100億ドルを投資するなど、生成AIに世界の関心が集まる。

 そのオープンAI社は2023年11月中旬、CEO(最高経営責任者)のサム・アルトマン氏を解任したと発表。このことに対し、社員の9割が抗議して退社すると伝えられ、解任劇はわずか5日間で撤回された。

 この解任撤回の背景には、同社の出資者である米マイクロソフト社がいると言われているが、AI領域の動きは実に速く、多面的で興趣に富む。

 生成AIの主要な用途・使い方について、熊谷氏は3つを挙げる。

 まず1番目は、業務の生産性の向上である。会議の議事録づくりにしても、従業員が1時間掛けて作成していたことも、1分でできる。そして2番目は、グループ106社が提供する無数のサービスに生成AIを組み込み、「お客様の体験をより良くしていく」という目標。

 3番目の目標は、GMOインターネットグループの事業の性格付けとも関連するが、あくまでも自分たちは、インターネットのインフラ事業に徹し、その整備に生成AIを活用するということ。

 熊谷氏は、金鉱山の開発に喩えて、金鉱脈を掘っている人に対して、自分たちは作業着としてのジーンズやスコップなどの道具を貸し出す仕事と説明。

 具体的に、「『NVIDIA H100』を搭載したサーバーであったり、AIのベンチャーにグループ会社の『GMO AI & Web3』が出資を含めて支援するなどしていく」と熊谷氏は語る。


Web3.0の登場で世界が大きく変わる中で……

 最近、Web3.0(ウェブスリー)という言葉がしきりに使われる。

 インターネット革命では、まずWeb1.0が起こり、次に、Web2.0となった。

 Web1.0は『知りたい』という知識欲の時代。次いで、Web2.0は『目立ちたい』という自己顕示欲に応える時代。

 そして、最近のWeb3.0は投資欲を満たす時代とされ、これが多くの人をWeb3.0へと駆り立てる原動力となっている。

 Web2.0と違って、Web3.0は〝分散〟がキーワード。

 熊谷氏は、「ブロックチェーン(分散型台帳技術)とその技術によって契約を自動で実行するスマートコントラクトが発明されたことが大きい」とする。そして、そうした技術を活用することによって、「DEX(分散型取引所)とNFT(非代替性トークン)が登場し、世界が大きく変わった」という認識を示す。

 NFTのように、トークン(token、しるし、認証の意)という言葉もよく使われるようになった。暗号資産(仮想通貨)や各種トークンが交換される交換所がDEX。従来の取引所のように、ある企業や団体・組織が管理するのではなく、改ざんできないブロックチェーン技術やスマートコントラクトによって、企業などの仲介も不要で、ユーザー同士が直接やり取りできる仕組み。

 熊谷氏自身、上場会社を10社創ったが、各社の上場にはそれなりの年限と時間がかかった。

「ええ、皆が徹夜で審査書類をつくり、証券会社や東京証券取引所に審査いただいて、上場にこぎつけるわけですね。早くて3~4年、長いと10年、20年かかることだってあるわけです」。

 今はDEXという機能が生まれ、「それこそ上場させるのは瞬時にできる時代。だから今、世界の頭脳とお金が一気にWeb3.0に向かっている」のだが、日本は税務的、会計的な理由で、それが容易に認められず、世界に遅れを取っている。

 そのために、日本のベンチャー企業にもシンガポールや中東・ドバイで上場する動きがみられる。

 世界の頭脳、エンジニアや資金を日本に呼び込むために、「日本はもっと最先端の政策を打ち出すべきだと思います」という熊谷氏の思い。


ネット革命の後半戦は『格差が付く』時代に

 熊谷氏はネット革命の後半戦に向けて、やるべき事は多いとして、前向きに取り組んでいく考えだが、同時に緊張感、警戒感も隠さない。

「55年の前半戦で、われわれGMOインターネットグループが広げてきたインターネットは、人々の格差を縮めるツールだったんですね。多くの方が、いろいろ調べなければいけなかったことが、スマホの中で分かるようになった。世界の半分以上のデータはスマホ経由で、すごく便利になったんです」

 熊谷氏は前半戦をこう総括し、次のような認識を示す。

「でも、AIはレベルの低い質問をしてもレベルの低い回答しかよこしません。頭の良い人がきちんとした質問をすると、優秀な回答を瞬時に戻してくれます。AIは、人の格差が広がるツールなんです。サルと人間になってしまうツールなんです。だから、AIはものすごく真剣に取り組まないとえらい事になります」。


東大・医科学研とも連携

 同社はこのほど、生成AIの活用を目的として、東京大学医科学研究所と連携。ガン防御シグナル分野の権威である同研究所の中西真教授との共同研究で、生成AIを活用し、人間の老化細胞シグナルを解き明かそうとしている。

 すでにマウス実験で成功している『老化細胞の選択的除去』を、人間に応用することを目指す。もし、人間の老化細胞のメカニズムを解明し、それを取り除くことが出来るようになれば、人類の健康寿命を延ばすこともできる。医学領域で重要なブレイクスルーになる研究だ。

「これは、アンチエイジングの話をしているのではなくて、老化は病気であるということで、研究を進めているんです」

 同社のスーパーエンジニア、データサイエンティストチームが高性能ハードウェアを駆使して、「中西教授の保有する研究データの分野別生成AIによる解析にご協力させていただいています」という同社の取り組み。

 またほかにも、熊谷氏は新しい領域に次々と挑戦しようとしている。このほど大阪城空域で行われた『空飛ぶクルマ』の有人実証飛行に、熊谷氏自身が第1号パイロットとして参加。

「高層の空は、ジェット機がガンガン飛んで結構混んでいるんです。中層の空、低層の空はガラガラなので、ここを有効活用すべきだと」

『空飛ぶクルマ』も落ちたら〝爆弾〟になるので、そうならないように、GMOはセキュリティ面で参加する。次代のモビリティ(移動)を担う『空飛ぶクルマ』に自分たちのセキュリティテクノロジーを活用しようという試みだ。

 こうした最先端新領域の開拓のために、「人への投資」を含めた投資を積極的に進める考え。


「挑戦し続ける!」

 今、世界全体が環境激変期にある。コロナ禍は一段落したとは言え、ウクライナ危機、パレスチナ危機は続き、東アジアも、台湾有事などが懸念され、不透明感が付きまとう。

 産・官・学各領域のリーダーも緊張感を持ちながら、前に進もうとしている。

「賃金の引き上げを含めて、人への投資をしていく。企業の成長、社員の成長のために常に投資をしていく」と語るのは、アサヒグループホールディングス会長・小路明善氏。

 また、教育界でも変革が進む。国際教養大学理事長兼学長のモンテ・カセム氏(スリランカ出身)は、「日本(人)の良さは、謙虚で、安全・安心が保証される国づくりをしていること。欠点は、組織人になり、自らを控え目にして組織に従うから、画期的な事が出来ない、意思決定が遅い」と語る。

 モンテ・カセム氏は、「日本はアジアの方々と共に未来をつくるべきだと。アジアだけでなくて、アフリカや南のグローバルサウスの国々ともね。潜在力はあるし、それを発揮すべきだと思います」と助言する。

 こうした状況下、GMOインターネットグループの創業者・熊谷氏は、長期的な視点で、世界の変革期を生き抜く戦略を見据えようとしている。

 2023年7月に満60歳を迎えた熊谷氏が起業した1991年(平成3年)は、日本のバブル経済がはじけた頃。産業の動向には栄枯盛衰は付きものだが、その中で、インターネット革命にチャレンジし、上場会社10社を育て上げた熊谷氏。

 混沌状況を生き抜くにはどうすればいいと考えるか─。

「多くの人が私利私欲中心に判断したり、行動したりすると、争いもなくならないと思います」

 熊谷氏が続ける。

「全ての人が世の中、社会全てが良くなるように、他のものに心を移せば、戦争も解決すると。私利をなくすことで、あらゆる事が良くなると思うんですね」。

 そして、自らの本拠・GMOインターネットグループについて、「三菱や住友さんではないですけれども、100年単位で存続することにチャレンジしていきたい」と抱負を語る。

 挑戦はこれからも続く。

本誌主幹 村田博文

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