2023-10-06

日本生命保険社長・清水博の「社会課題の解決へ、生保の使命と役割論」

清水博・日本生命保険社長

先行き不透明感が増す中で、「安心・安全」をどう確保していくか─。生命保険のニーズも、死亡保障から、資産形成、医療・介護関連など、老後のサービス提供まで多様化。そうした保険ニーズの多様化、個別化について、「対応が十分かどうか、自らに問わなければいけない」と日本生命保険社長・清水博氏。人口減、少子化・高齢化の中で、若者の保険加入率が減少、同時に高齢者の増加に伴い、資金が不足する“長寿リスク”などにどう対応していくかという課題。こうした保険業務の制度設計と共に、資金運用をどう図っていくかも重要な課題。折しも、日本銀行の政策金利がどう推移するかに関心が集まる。資産を運用する側にとって、金利上昇は基本的に望ましいが、保有債券価格の下落で含み損も抱える。過渡期の痛みをどう乗り越えていくか。中長期視点で、地球環境・脱炭素から少子化・子育て問題までの「社会課題解決で生保は貢献していく」と清水氏。今後の経営のカジ取りは─。


転換期の今、経営者に求められる2つの要件

 さまざまな危機、変動要因がある中で、企業はどう生き抜き、成長を図っていくのか─。

「経営者は若干リスクを取って投資をして、次の成長を探すということですね。そして、1人ひとりの従業員の能力を高めて、働き方を多様化して、能力を最大限に発揮してもらえるような職場環境をつくるかどうか。この2つがとても重要だと考えています」と日本生命保険社長・清水博氏。

〝失われた30年〟といわれ、物価が下落するデフレからの脱却という課題を背負ってきた日本。企業の投資不足もデフレを招いた一大要因とされたが、今は民間投資も活況を帯びてきた。投資を積み重ね、国民の所得を増やし、賃金増で消費も増やす好循環をつくることの重要性。

「ええ、投資という意味での資本の活用はおっしゃる通りだと思います。ただ、現金、財務的資本だけではなくて、非財務的な資本、人的資本の高度化ですね。これも付いていかないと。お金だけ回っても、それを担当する人の力が高まらないといけませんから、財務的資本と非財務的資本、つまりお金と人が両輪としてグルグル回っていくことが必要だと思います」

 今春、産業界は多くの企業が本格的な賃上げに踏み切った。

「これまでの流れを変えて、次の成長に向かう第一歩ですので、これが第一歩だけで終わらずに、二の手、三の手が必要ですね」と清水氏は強調。

 今はデフレの状況から脱却し、ディスインフレ状況とされるが、次の成長に向けて、何が必要なのか?

「今までは、ニワトリと卵の関係と同じで、投資に関しても、先にリスクを取って投資をするのか、いやいや成長の確信が得られてから投資をするのかと。賃上げも、先にデフレが収まって成長の芽が出てこないと。それが先で賃上げはその後だと。いや、賃上げをすることによって、デフレの芽を潰すんだという考えが交錯していた」

 それが今年の春に、賃上げ気運が一気に盛り上がった。

「はい、デフレが完全に払拭されるのを待つ時間的余裕はないという空気。政府からの要請もありましたが、間違いなく、わたしを含めて、企業経営者がここは覚悟というか、判断したのだと思うんです」

 清水氏は、「賃上げだけが人的資本を伸ばすことではないですね」と次のように続ける。

「リスキリングという言葉に代表されるように、人的資本の拡大、従業員の能力の再活用を含めて、もしくはさらなる教育を含めて、どう伸ばしていくか。人的資本の成長が問われてくると思います」(後のインタビュー欄参照)。

 生命保険業務の基幹は、保険料を顧客から集めて、各種保険サービスを提供するという業務が1つ。そして、その保険業務の基盤を固め、その持続性を高めるための資産運用の2本柱で生保会社の経営は成り立つ。

 保険ニーズが多様化する中、人口減、少子化・高齢化が進み、若者の保険離れという現象も散見される。そうした中で、新しい保険サービスの設計とその実行を担うのは、「間違いなく人」という清水氏の認識。

 ウクライナ危機で、資源・エネルギー価格は高騰、インフレが進むなど悩ましい状況が続く。

 インフレ抑制のため、欧米の政策金利は5%台に引き上げられたが、日本の短期金利はマイナスのままで円安傾向が続く。

「円安はグローバルに活動している企業会計にはプラスだが、輸入物価上昇という面で国民生活にはマイナス影響が出る」(某経済団体首脳)と、1㌦=140円台後半の現状は悩ましいという声もあがる。

 まさにプラス、マイナスの影響が入り交じるのが現状。先行き不透明感がある中で、どう『安心・安全』を確保していくかという今日的命題である。

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