2023-09-20

マルハニチロ社長・池見 賢の「環境が激変、経営を変えないことのリスクが大きい時代」

池見賢・マルハニチロ社長

「水産物をどう確保していくか。これが、今、われわれが一番真剣に考えなければならないことです」とマルハニチロ社長・池見賢氏。今、異常気象・気候変動だけではなく、水産物領域でも“異変”が起きている。鯖、サンマ、それにイカといった魚類が「全く獲れない」といった悲痛な声が漁場で上がる。今後、世界人口の推移と魚の再生力の関係はどうなるのか? 世界規模では、1人当たりの魚摂取量は増加し続けており、近い将来、水産資源の奪い合いになる可能性が高い。四方を海に囲まれた日本は、世界の魚価を決める“リーダーシップ”をすでに喪失。そのポジションは中国や欧州に取って代わられつつある。「水産物を輸入するなら、高い値段でしか買えない」と池見氏。国民の“魚離れ”の動きも気になるところ。魚の摂取が減り、対照的に肉の摂取が進む。1人当たりの魚の年間消費量もかつて60キロあったのが45キロに減少。食料安全保障とも絡み、水産資源をどう確保していくかという日本の課題である。

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天然の水産資源はこれ以上増えない

「水産物と加工食品の枠組みを超えて、グローバルな総合食品企業を目指す」とマルハニチロ社長・池見賢氏は経営の方向性を語る。

 コロナ禍で食品業界は業務用と家庭用で明暗が分かれた。レストランやホテル・旅館など業務用は大きな打撃を受けたが、今またインバウンド(訪日)客の増加などで復調。

 また、家庭用は、コロナ禍期間中は巣ごもり需要が生まれ、加工食品や冷凍食品へのニーズが高まり、コロナ禍が落ち着いた後も好調が続く。特に〝冷凍ラーメン〟で売上高1位の『横浜あんかけラーメン』といったロングセラー商品などもあり、池見氏も「消費者のニーズの変化にいち早く対応していく」と商品開発に注力する。

 水産最大手のマルハニチロはもともと水産資源獲得のため、国内外に多数の拠点・流通網を構えており、連結従業員数は約1万2800人を抱える。

 現在、冷凍食品・缶詰など、加工食品の分野でも大手の地位を築いており、高齢化など、時代の変化にも対応。近年は、介護食品やペットフードなど、新たな事業も展開している。

 同社の歴史は古く、水産界では歴史と伝統を誇る会社として位置づけられている。

 1880年(明治13年)に兵庫県明石市で創業し、山口県下関市を拠点にした遠洋漁業・水産加工大手のマルハ(旧大洋漁業)と、1907年(明治40年)新潟三条市で創業した北洋漁業・水産加工大手のニチロ(旧日魯漁業)の二社が淵源。

 その二社が漁業、水産加工、畜産などの事業領域で再編・統合を進めた後、2014年(平成26年)合併し、発足したのがマルハニチロ。

 旧マルハの創業(1880)からすると、実に143年の歴史がある。

「もともと、我々は漁業会社だったので、水産物の調達力に関しては自負もあり、ピカイチかなと思っています」と池見氏。

 池見氏は1957年=昭和32年12月生まれで、京都大学農学部を卒業した後、1981年に旧マルハに入社。ソロモン諸島に2度駐在し、都合7年勤務。次いで、タイ・バンコクに9年勤務と計16年間の海外駐在を経験。

 海外部長、常務執行役員、専務執行役員を経て、2020年に社長に就任という足取りだが、この間、旧マルハと旧ニチロの経営統合、事業の再編を経験してきた。

 そして、社長になった今、世界全体が水産資源の減少に直面し、いかにして水産資源を確保するかという課題を抱える。

 その池見氏が水産資源の現状を憂えて、次のように述べる。

「水産物はもうこれ以上増えないという強烈な事態に今なっているんですね。天然の魚は恐らく、もうこれ以上は伸びないと。資源的に余裕があるのは1割しかないと言われていまして、3割はもう獲りすぎ。6割はもうこれ以上獲ったら危ないよ、と言われている」

 一方で、養殖は盛んになりつつあり、最近では『陸上養殖』という言葉もよく聞かれるようになった。

 異常気象・気候変動で海水温が上昇し、海上での養殖は難しくなってきた。そこで、コストをかけてでも陸上で養殖する時代を迎えているという現実。

 自然界の水産資源は減少しているが、養殖が増え、〝世界人口と魚の再生力〟のバランスが今は何とか保たれている。

 ただ、世界の魚摂取量は年々増え続けており、いずれそのバランスは崩れてしまう。

「今、世界の人口は78億人で、10年後には90億人という予測ですね。今、1人当たり20キロの魚を食べるんですね。1980年代は半分の11キロしか食べなかった。それが今は倍増しているということで、このままだと、とてつもない水産資源が必要になってくる」

 池見氏は、今の地球環境では必要な水産資源の確保は厳しいとして、「水産物をどう確保していくかが我々の最大課題」と語る。

 とにかく、水産資源の枯渇という現実課題にどう対応していくかということ。

 8月下旬、〝秋の味覚〟として親しまれてきたサンマが北海道で水揚げされた。サンマの不漁というか、サンマが獲れない─という話は以前から聞かされてきたが、何と市場のセリで落とされた価格は、昨年の4倍という高値。『一尾5378円』という店頭価格に消費者もビックリの様子。

〝庶民の魚〟であるサンマが今、高級魚になってしまったという現実。日本は、水産資源の確保にどう動くべきか─。

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