2021-04-16

東レ社長・日覺昭廣の「素材には、社会を本質的に変える力がある!」

日覺昭廣・東レ社長


人を大事にし、人を育成する経営で

 コロナ危機への対応も国によって違う。米国は死者数も50万人を超えるが、消費活動を含め、経済への対応は前向き。欧州は一言では言い表せなくて、ドイツあたりは堅実・堅調な生き方だが、イタリアは楽天的な要素が加味されたりする。

 人材の流動性の高い米国での経営はどうか?

「米国の関係会社のトップ、アメリカ人の社長は今、5人ぐらいいます。新しく買収した2社は今のところ、日本人の社長を置いていますが、大半はアメリカ人のトップです」

 東レが食品包装用や一般工業用の高付加価値包装向けのプラスチックの製造会社、TPA(Toray Plastics(America),Inc.本社・ロードアイランド州)を設立したのは1985年(昭和60年)だから、35年余が経つ。

「もう30数年経つんですが、それこそ30何年間いる人が社長になっています。東レのモノづくりの考え方が染みついている」

 日覺氏は、「人を大事にして、育成して、東レの経営の考え方が浸透している人が経営のトップに達して、ずっと会社にいるんです」と語る。

「確かに、一般的なアメリカ人はどうだといわれたら、それは違うかも分かりません」と日覺氏は言いながら、少なくとも東レの米子会社や関係会社で「人」を基調にした経営に今後も注力していきたいと語る。

世界が変革していく中、日本はもっと主体性を!

 世界中で経営のあり方の見直しが進む。米国の有力企業の集まり、ビジネス・ラウンド・テーブルも従来の株主資本主義偏重から、全ステークホルダー(顧客、取引先、従業員、地域社会)に気配りする考え方を提唱。

 2019年初めには、英国もコーポレート・ガバナンス・コードを改定し、従業員を大事にする経営を打ち出したり、雇用面での改善も進む。

「ええ、世界的に、いわゆる日本的経営というか、人を大事にする経営が見直されてきています」と日覺氏も語る。

 日本でもNHKが大河ドラマで、日本資本主義の生みの親とされる渋沢栄一を主人公にした『晴天を衝け! 』が今年制作され、放送されている。

『論語と算盤』の考え方で倫理観に基づく経営、もっといえば社会に貢献する企業経営の大事さを説いた渋澤栄一の思想の再認識である。公益資本主義の考え方の広がりと言っていい。

 ただ、日本の現状に日覺氏は〝注文〟を付ける。

「日本も、早く現状を変えないといけないのですがね。というのも、米国などが変わろうとする以前の欧米のコードに向かってきているのが、今の日本ですからね」

 2010年(平成22年)6月の社長就任以来、株主資本主義偏重のゆがみを説いてきた日覺氏。

 世界中で経営のあり方の見直しが進む背景には、所得や雇用などで『格差』が生まれ、そのことが新たな危機を生み出すという危機感があるからだ。

「格差を生んだということと、豊かさといっても、それはほんの一部の人しか恩恵を受けていなくて、ほとんどの人がカヤの外。結局、そうした状況を生み出すのは金融緩和で、お金をジャブジャブ刷った。そのジャブジャブ刷ったお金を扱える人って、ほんの数%の人でしかない。その人たちが実体経済を動かしているわけでも何でもない」

 数年前の世界のGDP(国内総生産)は約75 兆ドル。これに対して金融資産は約250兆ドルだった。それが、最近は世界GDPが約85兆ドルに対し、金融資産は約350兆ドル。金融資産の増え方が著しい。

 この結果、何が起きるか? コロナ危機も重なり、経済を落としてはいけないと、各国の金融当局とも金融緩和を続ける方針。続けざるを得ないということであり、政治的にもそういう判断が続く。

「問題なのは、その刷ったお金が実体経済に回らず、バブルをつくるだけだということ」。

 原油相場が一時はゼロ価格を割ってマイナス価格になるといった〝おかしな〟現象も生まれた。

 日覺氏は「だから、僕はマイナス金利なんていうのは、その自浄作用だと思うんですね」という認識を示す。

 では、この混沌とした状況下、モノづくりの使命をどう発揮していくのか。

本誌主幹・村田博文

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