2022-03-26

【政界】真価問われる「岸田リアリズム外交」 日米同盟を基軸に日本ならではの生き方も

イラスト・山田紳



リアリズム外交

 岸田は「新時代リアリズム外交」を掲げている。昨年12月に都内のホテルで行った講演で初めて打ち出し、今年1月の施政方針演説でも改めて表明した。

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 その底流にあるのは岸田が率いる自民党の政策集団「宏池会」が輩出した歴代首相たちだ。外相時代に日中国交正常化を実現させた元首相の大平正芳や、国連平和維持活動(PKO)協力法を成立させた元首相の宮沢喜一らは「リアリズム外交」を掲げていた。その手法を引き継ぎつつ複雑化する21世紀の国際情勢に柔軟に対応していくことを目指す。

 具体像はなかなか見えてこないが、「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を守る」ことを柱に位置付けている。普遍的な価値を共有する先進7カ国(G7)と連携を強めることで強権、専制主義の中国、ロシアと対峙する姿勢といえる。

 ただ、岸田は昨年12月の講演で「言うべきことはしっかり言うのは当然だが、一方で隣国の中国、ロシアとは安定的な関係もしっかり維持していかなければならない。少なくとも対話は維持していかなければいけない」とも語っていた。

 複雑な舵取りが求められるだけに、当初は〝ちぐはぐ〟な外交姿勢が目立った。

 今年2月15日、ロシアのウクライナ侵略の懸念が強まり、欧米諸国がロシアへの経済制裁を議論している最中に、外相の林芳正はロシア経済発展相のレシェトニコフと「貿易経済政府間委員会」をテレビ会議形式で開催した。

 林「のちほど申し上げるが、現下のウクライナ情勢については重大な懸念をもって注視している。貿易経済分野での協力が日ロ関係全体を発展させることに資するものになるよう有意義な意見交換を行いたい」

 レシェトニコフ「新型コロナウイルス感染拡大の影響による制限、貿易額の削減にもかかわらず、2021年にロ日経済関係が上昇傾向を見せたことを高く評価する」

 そうしたやり取りで始まった委員会は、さすがに不評を買った。外務省が「外相は主権・領土一体性の原則の下、緊張を緩和し、外交的解決を追求するよう求めた」「日本の立場を直接説明するために開催した」などと説明しても、「経済制裁を検討している相手となぜ経済協力なのか」「G7分断を狙うロシアに利用される」などの批判がくすぶり続けた。

 これまでも対話の窓口を維持することが大事だとする外務省の姿勢は「岸田外交」のちぐはぐさを際立たせた。中国の人権問題をめぐる北京冬季五輪の事実上の「外交ボイコット」は欧米諸国よりも大幅に遅れて表明した。韓国が反対する「佐渡島の金山」(新潟県)を世界文化遺産の候補として推薦することもギリギリになって決断した。

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