2022-05-25

コロナ後をにらんでの都市づくり【森ビル・辻慎吾】オフィスの使命は変わらない論

森ビル社長 辻 慎吾

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「オフィス不要論?とんでもない、真逆です」

 オフィス需要の動向は、コロナ危機を契機にどうなったのか?
 辻氏は六本木ヒルズを引き合いに、テナントの動きを語る。「コロナになってから、100%リモートワークしている企業は何社もあるんですよ。例えばIT系とか、当社にはGAFA
が2社(アップルとMETA=旧フェイスブック)入っていますが、そうしたテナントはコロナが始まってから今まで100%、リモートワークで、ほとんどの社員が出社していない。そうした会社が今、オフィスを増やそうとか、オフィスの改修をどうしようかと考えています」

 そのオフィスの在り方は旧来のものとは変わってきた。机やイスを1人の人間に固定させず、みんなで共有し、柔軟に使い、いつでもどこでも、自由に働くという概念のフリーアドレスは相当広まってきたが、新しい働き方を模索する中で、新しいオフィス需要が生まれているということ。
「ええ、フリーアドレスにしてもいいのですが、人が集まって意見を交わせるとか、オフィスに集まる動機づけになるとか、多分そういうオフィスをつくろうとしている」

 辻氏は、新しいオフィス需要について、「みんなが対面してコミュニケーションができるような、仕掛けのあるスペースを結構つくっていますね」と語る。
 コロナ禍の当初、メディアの一部に「オフィス不要論」が出たが、辻氏は「とんでもない。真逆ですよ」と反論する。

「僕らの仕事は、ああいう街づくりにしても、クリエイティブ(創造的)なものです。そのクリエイティブなものを生み出そうとするときに、対面で侃々諤々(かんかんがくがく)議論してこそ、いいものが生まれます」
 創造的な仕事を生み出すのに、議論の場、つまりコミュニケーションの場がより一層重要
になっているという認識。
 ポスト・コロナをにらんで次の成長を取り込もうとする経済人たちの動きである。
 では、『人間の本質』を見据えての新しいオフィス、新しい街づくりとは、どういったものになるのか─。

新しい『生き方・働き方』を提案してきた歴史

 森ビルは現在、2023年竣工を期して、東京・港区で『虎ノ門・麻布台プロジェクト』を推進中。
 同社は、新しい街づくりを目指して、これまで『六本木ヒルズ』(2003年竣工)、『虎ノ門ヒルズ』(2014年竣工)を次々と押し進め、東京の再開発に刺激を与えてきた。
 この大型の都市再開発は元々、『アークヒルズ』(港区赤坂、1986年=昭和61年竣工)の開発に始まる。
 大型の都市開発には年数も相当かかる。
 アークヒルズをはじめ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズなども約17年という開発期間を要した。現在進めている『虎ノ門・麻布台プロジェクト』は2019年着工だが、それまでに約30年間の開発期間を費やした。
 地元民との対話を粘り強く進め、幾多の困難な局面を乗り越えてきたプロジェクトだ。

 そうした難交渉をまとめ上げるエネルギーの源には「新しい都市を創る」という森ビル創業家の2代社長・森稔氏(1934―2012)の思いがある。
 森稔氏は父・泰吉郎氏から後を受け継いで、今日の森ビルの基礎を作った実質創業者。東京を国際都市に、という思いで、長期的視点に立ち〝魅力ある東京〟づくりに一生を賭けた。
 現社長・辻慎吾氏は、その森氏の思いを受け継ぎ、発展させようと、虎ノ門ヒルズ、そして今回の『虎ノ門・麻布台プロジェクト』の完成に向け、陣頭指揮を取ってきている。

森稔氏がアークヒルズ建設以来、強く訴えてきたのは、住む所と働く所との一体化であった。住む所と働く所は離れている。住居から電車やバスを使って都内の勤務先へ時間をかけて通う─というスタイルを首都圏に住む人たちは続けてきている。
 それを、『職・住近接』で、住む所と働く所を同じ所にする都市づくりを目指してきたのが森ビル。つまり、生き方・働き方を変えようと訴え続けてきたという同社の歴史である。

 国際都市ランキングにおいて東京は、ロンドン、ニューヨークに次いで世界第3位に位置付けられるようになった。

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本誌主幹 村田博文

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