2022-06-23

【政界】動き出す自民党の首相経験者たち 見据えるのは参院選後の内閣改造

イラスト・山田紳



自由に言える立場

 参院選後を見据えているのは岸田だけではない。自民党の首相経験者の面々も同じだ。

 元首相の安倍晋三はこのところ、岸田政権に対する発信を強めている。政府が6月7日に閣議決定した「骨太の方針」を巡っては、防衛費の増額にこだわり続けた。

 骨太の方針の原案には、ロシアによるウクライナ侵略を踏まえ、「国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を抜本的に強化する」と盛り込まれていた。従来の「防衛力を大幅に強化する」という表現を「抜本的に」と強めていたが、安倍は首を縦に振らなかった。

「国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力の抜本的な強化に向けて必要な水準を達成することを目指すと骨太の方針に書くべきだ」と主張し、増額の数値目標と達成時期を明記するよう求めた。

 22 年度の防衛費は約5兆4000億円で、GDP比1%ほどだ。これまで1%程度で推移しており、2%以上への増額には5兆円規模の予算が必要となる。連立与党の公明党サイドは慎重な姿勢を示したが、安倍はこう訴え続けた。

「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の正面にあるのはロシアだけだが、日本は中国と北朝鮮も加わって、はるかに状況は厳しい。GDP比2%を超える額が必要だ」

「骨太の方針には国民の生命と財産、領土・領海・領空を守り抜くという国家意思を示すべきだ」

 政府は最終的に「5年以内」「GDP比2%以上」を盛り込んだ骨太の方針を閣議決定した。

 強硬姿勢を貫いた安倍は、防衛力を強化させるタイミングは今しかないとみる。ウクライナ戦争は「対岸の火事」ではなく、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しているという意識が国民に広がっているからだ。

 実際、主要メディアの世論調査では、防衛費増額に賛成する声は、毎日新聞76%▽日経新聞55%▽産経新聞62%─などと半数以上を占めている。

 15 年に集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法を成立させた安倍には、「戦争法だ」「徴兵制だ」といったレッテル貼りを受け、内閣支持率を大きく落とした苦い記憶がある。それでも、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮や、覇権主義的な行動を強める中国に囲まれる日本は、米国との同盟関係を深化させる必要があるという信念は揺らいでいない。

 安倍は6月3日のインターネット番組で、当時の思いと今を重ねながら、こう心情を吐露している。「私はいま総理大臣でも内閣の
一員でもありませんから、自由に言える立場なのです。私も総理大臣時代、自民党内でこういう発言をしてくれればいいのになあ、と思うこともあった。いま私がすべきことは、政府としてなかなか言えないことを言うことではないかと思っている」

 安倍は、防衛費だけでなく、国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化を巡っても党内議論を主導し、「2025年度」としてきた年限目標を骨太の方針から削除する流れをつくった。原案の段階では「2025年度のPB黒字化を目指す」とあったが、安倍は自ら財政規律を重視する自民党財政健全化推進本部の本部長、額賀福志郎らを説得して回った。

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