2022-07-13

【荒れる市場】ソニーフィナンシャルチーフエコノミストが直言、円安・物価高に日本の打つ手は?

菅野雅明・ソニーフィナンシャルグループチーフエコノミスト



為替の円安は消費者にとって厳しく


 ─ 日本経済の状況をどう見ますか。

 菅野 エネルギーや食品などの輸入物価がドルベースで上がる下で、為替は円安ですから消費者にとっては厳しい環境が続かざるを得ないと思います。

 ただ、日本の政策の枠組みは諸外国と全く逆です。他の先進国は金融引き締めのなかで、財政は動きが取れない状況です。財政支出を増やすと、さらにインフレが進むからです。

 一方日本は、インフレといっても2%強で、日本銀行は基本的に金融緩和のスタンスを変えることはなさそうです。円安は続きますが、他の先進国と違って日本は財政支出を増やせます。

 7月に参議院議員選挙を控えており、岸田政権は「大盤振る舞い」をしているように見えます。例えばガソリンに加え配合飼料などに補助金を出すことも検討されています。もちろん、それでコストアップが全て帳消しになるわけではありませんが、諸外国から見ると、かなり恵まれた状況にあると思います。

 ─ 円安については「行き過ぎた円安」ということで懸念する声が高まっていますが。

 菅野 確かに円安は、賃金が上がらない状況の中では消費者にとっては苦しいですが、円安で得をしている人もいますが、あまりメディアでは取り上げていないようにみえます。

 例えば、小麦粉の価格が上がると、米粉の需要が出てきます。日本の農業にとっては追い風となってきます。

 もちろん、日本の農業は肥料や飼料を輸入するなど、輸入依存度が高い面もあります。ただ、農業は日本国内で付加価値を付けている部分がありますから、競争力が高まり、国産品のシフトが起きてきます。必ずしも、全てマイナスというわけではないということです。

 今後は、海外からの訪日観光客が増えていく可能性が高いわけですが、そうなると多くの人が円安メリットを実感することになります。「安いニッポン」ですから、かなり訪日需要も出てくると思います。

 ─ 今後、観光需要がプラスをもたらすということですね。

 菅野 海外の友人などから聞くと、日本の入国規制がこれだけ厳しいのはかなり異常です。訪日観光客を解禁したといっても、まだ団体客だけです。欧米では、個人をいつから受け入れてくれるのかに注目しています。

 日本政府は海外からの個人客を受け入れて、同時に万が一を考えて国内の医療体制を整備しておけば対応ができるのではないでしょうか。

 私自身、専門家ではありませんが、新型コロナウイルスのうち「オミクロン株」はかなり毒性が弱いようで、重症化率は高まっていません。ワクチンはありますし、今後治療薬も出てくるということになれば、経済交流はもっと活発にできるようになります。その時に円安は非常に大きなメリットになります。

 ─ 今後、円安はどの程度の水準まで進むと見ていますか。

 菅野 私は1ドル=140円程度までは円安が進むのではないかと見ています。ただ、米国のFFレートが4%を超えてくる場合には145~150円もあり得ます。

 足元でFFレートは1.5%ですが、私は7月あるいは9月以降には、利上げペースが緩やかになると見ています。ただ、来年に向けてインフレが収まらないということになると、今の市場の見通しよりも利上げペースが早まる可能性が出てきます。カギは米国の賃金です。

 ─ 米国では賃金は上昇傾向にありますね。

 菅野 ええ。今、米国では労働需給が非常にタイトになっています。一方、モノの価格は国際商品市況に連動します。足元では原油価格など水準は高いですが、上昇ペースは鈍化してきます。ですからこちらはあまり心配していません。

 重要な点は、コアCPI(消費者物価指数)でみると7割がサービスだということです。ですから、サービスのインフレ率が下がらないといけないわけですが、これは賃金と家賃で決まります。

 家賃を見ると、米国の住宅価格は前年比で2割ほど上がっています。足元では住宅ローンの金利が上がって需要は落ちていますが、それ以上に中古住宅の在庫が不足しているため、住宅需要が落ちても、住宅価格はなかなか下がりません。

 また、住宅価格から家賃までのタイムラグが1年半ありますから、当面、家賃の上昇率が高まる可能性が高いです。そうすると、残るは賃金しかありません。賃金を抑え込まないと米国のサービスインフレは落ちませんし、全体のインフレ率も下がりません。

 ─ 失業率も低いですね。

 菅野 失業率は3.6%です。中立と言われる金利水準が4.0%ですから、まだまだ低い。ですから、これでは賃金インフレは収まらず、かなり強い引き締めが必要になってきます。

 しかし、今年11月には中間選挙を控えていますから、インフレ率を抑えなければならない一方で、雇用が急激に悪化するとバイデン政権に打撃になります。パウエルFRB議長は難しいカジ取りを迫られています。

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