2022-07-13

【荒れる市場】ソニーフィナンシャルチーフエコノミストが直言、円安・物価高に日本の打つ手は?

菅野雅明・ソニーフィナンシャルグループチーフエコノミスト



日銀が食べた「禁断の木の実」


 ─ 日本では、日銀が金利を上げられない状況ですが、現状況をどう認識しますか。

 菅野 YCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)は長期間継続すべき政策ではなかったと思います。

 豪州中央銀行は昨年11月に豪州版のYCCを停止し、先日その総括を初めて発表しました。その内容をみると、出口の部分でマーケットに混乱をもたらしたことなどを反省すると共に、「もっと早く止めるべきだった」「中銀の信用と評判を損ねた」としています。日本以外の先進国中銀でYCCを導入したのは豪州だけです。

 YCCで長期金利を固定してしまうと出口が難しくなります。出口の前にはとてつもなく大きなスペキュレーション(投機)との戦いが生じます。ただ、短期的には日本が2%を安定的に超えるインフレになる可能性が低いので、日銀はいくらでも国債を買い支えることは可能です。

 ─ 日銀は金利上昇で保有する国債価格が下落し、債務超過に陥るのではという懸念もあります。

 菅野 日銀は国債を買い支えるにつれて低金利の国債を大量に保有することになります。そうなると問題は出口です。出口ではインフレになっていて金利が上がる時ですから、その時には債務超過のリスクが高まります。

 日銀はやるべきではないことを2つやりました。1つはYCC、もう1つはETF(上場投資信託)の買い入れです。中央銀行が食べてはいけない「禁断の木の実」を2つ食べたわけです。欧米先進国中銀では、マイナス金利政策と量的緩和は行ってもこの2つは採用しませんでした。基本的に出口が難しいことを理解していたからだと思います。

 また日銀の超金融緩和の長期化は低生産性の企業を温存することで、日本経済の体力を落としてしまうことになりかねません。禁断の政策に手を出す場合には、最初から出口、あるいはプランBを考えておく必要があったということではないでしょうか。

 今問われているのは、2%インフレ目標のコストです。米国が仮に4%のFFレートを付けてしまうと、為替は145円もあり得る状況です。そうなると消費者の不満はますます高まりますし、将来の大幅な円高の可能性まで考えると為替の変動幅が拡大し企業収益にも逆風とな
りかねません。

 ─ 日本経済の地力を上げるには賃上げと設備投資が大事だと言われていますが。

 菅野 本来であれば、日本でも消費者の不満は大幅賃上げに向かうべきなのでしょうが、賃上げを要求すると人減らしに遭うかもしれないということで日本の労働組合も強く出られないのかもしれません。そうだとすると、インフレになりづらい環境が続きます。

 そもそも、2%インフレ目標を、ここまで引っ張ってよかったのだろうかということになります。日銀は最近の円安を踏まえ、YCCの総括とともに、率直に国民と対話する必要があります。

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