2022-10-03

「認知症治療薬」の開発はどこまで進んでいるか?東京大学大学院教授・岩坪威氏に直撃!

岩坪威・東京大学大学院医学系研究科教授



 

日本では新薬をどう判断したのか?


 ─ この判断を受けて、日本はどう対応しましたか。

 岩坪 日本には医薬品の承認審査を行う、厚生労働省所管の独立行政法人であるPMDA(医薬品医療機器総合機構)がありますが、FDAの判断に遅れること半年、PMDAと厚労省は21年12月に審議をし、アミロイドβを除去するなど見るべきところはあるが、再度の検査結果が出るまでは継続審査という結論を出しました。

 ─ 米国に比べると、かなり保守的な判断になりましたね。

 岩坪 やはり審査結果は影響が重大で、どこが責任を負うかという問題もありますから、国は慎重に判断したのだと思います。

 ─ 2割でも効果が出るということであればアルツハイマー病の方には朗報に思えますが。

 岩坪 ただ、抗体医薬は価格が高いという問題もあります。年12回投与しますが、当初のバイオジェンの希望価格は5万6000ドル(22年8月末現在のレートで約780万円)でした。

 日本でこの新薬が適用される方の数は、最大に見積もれば100万人はいる可能性があります。実際に医療提供の対象となる方の数はこれよりはるかに少なく始まるものと思われますが、当初、数兆円かかるという話が霞ヶ関で独り歩きしたこともあったとも耳にしました。

 適応となる方に対して、進行速度を2割落とす効果があるというのは画期的ですが、新薬としては「確かによくなった」という「総合的な臨床的実感」がないと不十分だという面もあります。

 また、米国でも今年の初め、アデュカヌマブを公的保険で扱うかどうかを審議しましたが、その結果、判断にはデータが十分ではなく、再度の試験の結果を待ちたいという判断になりました。ただ、今後の治験のために使われる薬については保険償還するとも判断したのです。

 本来、バイオジェンとしては数百億円レベルでアデュカヌマブを売りたかったのだと思いますが、残念ながら現状は想定の100分の1もないという状況です。社員のレイオフも行われ、経営者も退陣しました。

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