2022-10-04

三井住友トラストHD・高倉透の「三位一体戦略」 投資家、起業家、金融機関をつなぐ資産運用

高倉透・三井住友トラスト・ホールディングス社長



 

信託100年改めて原点を見つめ直して


 22年は高倉氏にとって社長就任2年目であると同時に、三井住友トラストの中期経営計画の最終年度でもある。

 高倉氏の就任の前年、中計初年度はコロナ禍に見舞われ、当初見込んだ業績には及ばなかった。高倉氏が就任した年もコロナ影響による不透明感は残っていたため、慎重な滑り出しとなった。

 ただ、就任した年の上半期段階で「コロナの影響はあるが、ビジネス自体は中計で達成しようとしていることができるのではないか」という手応えを得ることができたと振り返る。実際、その下半期で、中計を達成できるくらいの実績を上げた。

 この要因は業績数字では見えないところにあったというのが高倉氏の実感。中計策定と同時に、同社は「信託の力で新たな価値を創造し、お客様や社会の豊かな未来を開かせる」という「パーパス」(存在意義)を定めたことが大きかったという。

 高倉氏と、三井住友信託銀行社長の大山一也氏とで、このパーパスの浸透活動に注力した。同時に組織も見直した。これまで事業ごとに資産運用・資産管理を行っていたものを、全社横断で行う形に変えた。

 昨年の上半期の終わりくらいから、次期中計も睨みながら、経営陣で2030年、それ以降に会社をどんな姿にしていきたいか?という議論をしてきた。

 次期中計はどういったものになっていくのか。「大きな姿は、今の中計で進んでいる方向。例えば資産運用・資産管理はこの10年で倍くらいの規模になっており、次の10年でも倍以上の規模にしていきたい。そのために有効なバランスシートの使い方をしていく」

 2022年は、1922年(大正11年)の信託法・信託業法制定から100年という節目の年でもある。

「信託は歴史的に、社会課題を解決し、同時に経済価値を生み出してきた。次の世紀に入っても時代時代に合った商品、サービスを考えて提供し続ける」

 その歴史の中では、戦後の高度経済成長が終わった後、日本国内で大きな投資が行われない時代もあったが、その中でも「人の知恵」で新たなサービスを生み出し、生き残ってきた。

 今は前述のようにカーボンニュートラルという、日本国内で投資しなければ達成できない目標がある。「さらに新しいアイデアを出していくタイミングだと考えている」

 

専業信託銀行グループであり続けることの意味


 三井住友トラストは、今や国内で唯一の専業信託銀行グループ。3メガバンク、りそなホールディングスとともに「5大銀行グループ」とも呼ばれる。

 同じく大手の三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行は、メガバンクグループの中で融資機能を商業銀行に寄せ、信託の機能発揮に特化した存在となっている。こうした状況の中で、独立系であることの意味をどう考えているのか。

「我々にとって、投資家、事業者ともにお客様。その間には資本市場があり、その中で資産運用・資産管理を旗印にして、様々な局面で商品、サービスを提供するという生き方をしてきた。投資家、受益者のお役に立って、初めて我々は利益を上げることができ、株主への配当もできる。この順番で物事を考えることができるのは専業だからだと思う」

 メガバンクグループの中では、どうしてもグループ全体の方針があり、それに信託銀行の事業が合致するかが問われる面が大きい。独立系だからこそ、信託銀行としての本来の役割が果たせるというのが高倉氏の考え。

「フィデューシャリー(受託者)としてのデューティー(本分)を果たすことで社会のお役に立つのが我々の使命」

 その意味で今後、ますます経済が混沌とする中で日本が成長していくためにも、投資家、起業家、金融機関を「三位一体」でつなげる存在である信託銀行の機能がより一層求められることになる。節目を迎えた三井住友トラストが果たすべき役割は重い。

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