2022-10-06

【三菱総研理事長・小宮山宏】2050年の最大産業は、『人財養成産業』に

三菱総研・小宮山宏理事長

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これから世界は自律分散協調系の国へ

 この混迷する状況下、世界はどこに向かおうとしているのかを小宮山氏に聞くと─。
「大きく言うと、グローバライゼーションの動向ですね。これまでは何かイメージとしては世界単一経済市場に向かってきていた。それが、今度は逆に向かっていくと。それは何かというと、自律分散協調系の国家があちこちにできるという世界になっていくのではないか」

『ベルリンの壁』が崩壊して30数年が経つ。この間、東欧の旧社会主義国などが一斉に市場経済になだれ込んだ。グローバライゼーションが一気に進んだが、30数年が経ち、その国ごとに経済成長も産業構築も違う。また所得格差などにどう対応するかという新たな課題も出現。
 先進国の中でも、『BREXIT(ブレグジット)』といわれるEU(欧州連合)からの英国の離
脱も起きて、世界全体が新しい国際秩序を模索し続ける。

 こうした各国の動きを捉えて、小宮山氏は「自律分散協調系の国家があちこちにできてくる」と予測。その自律分散協調系の国家が生きていく上でのキーワードが『自給国家』だと小宮山氏は語る。

「食料とか石油などのエネルギー、金属資源。今、これを全て日本は輸入しているものですよね。これが自給に向かう流れになると思っています」
 小宮山氏はこう日本の針路を説きながら、「その自給国家になれる条件が揃っているのが日本の強み」と強調する。

食料とエネルギーの自給国家への道

 食料の自給率は38%(カロリーベース)で、他の先進国と比べて日本はケタ外れに低い。
 ちなみにカナダは266%、豪州200%、米国132%と高く、欧州勢もフランスは125%、ドイツ86%、英国65%という水準。

 日本の食料は圧倒的な輸入依存型になっており、危機時にどう食料を調達するかという課題をはらむ。
 農水行政の関係筋からは、
「日本の食料輸入の9割は米国、豪州、ブラジルから賄っており、安全保障上はそう心配ない」との声も聞かれるが、それにしても自給率38%は低すぎる数字だ。
 そういう危機時に脆い体質の日本が〝食料の自給国家〟になるにはどうすべきか?
 小宮山氏は、「日本が自給国家になる基本条件は揃っている」と言う。

「基本条件の背景となるのは、温暖で水が豊富ということ。これが実を言うと、僕は最大の資源なんだと思っているんです」

 続けて、小宮山氏は「温暖で水が豊富ということは植物の成長が早いということなんです」と協調し、持続可能な開発(Sustainable Development) に言及する。
「サステナビリティ(Sustainability、持続可能性)というのは、最初にブルントラントさんが国連の世界委員会が定義しているんですが、(水や資源エネルギーについて)これ以上の消費をしないということ。本質的に言うと、光合成の活用ということですね」

 グロ・ハルレム・ブルントラント(ノルウェー初の女性首相)が国連『環境と開発に関する世界委員会』の委員長当時、『Our Common Future(われらの共有の未来)』という報告書を出し、「将来世代のニーズを損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすこと」という持続開発の概念を打ち出した。

 それ以降、この概念が持続開発の〝道しるべ〟となっている。
 その観点から、小宮山氏は「例えば石油というのは、昔の光合成の結果が蓄積されたものでしょう。この石油を使って、(人類は)活動しているわけですよ。これ(石油)を使わないというのが温暖化の問題、脱炭素の問題の本質」と指摘。

 そうした問題意識から、「毎日起きている光合成で文明を成り立たせていく」ことが持続開発への答えになるという考え。
 植物は、太陽光という光エネルギーを活用して、デンプンなどの養分(有機物)をつくる。また、光エネルギーを使って、水を分解して酸素をつくり出す。これらの作用を光合成と呼ぶ。
 言ってみれば、日々起きている光合成を活用して、日々の営みを維持するということ。
「食料というのはまさに農業ですから、農業をベースとした畜産業を含めて、まさに光合成の世界でしょう」

 光合成には、水と二酸化炭素が必要。その水資源が日本には豊富にあるということだ。

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本誌主幹 村田博文

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