2022-11-11

【政界】日本再生が必要な今、なぜ岸田政権は旧統一教会問題で躓くのか?

illustration by 山田 紳



消費者相が援護射撃

 旧統一教会問題が尾を引いたのは首相官邸と自民党の初動の甘さにも原因がある。すでに本欄で指摘してきたように、8月の内閣改造で教団と関係のあった議員の入閣を排除しなかったこと、その後の自民党の「点検」が党所属国会議員の自己申告制だったことによって、世論の批判は増幅した。 

 それが安倍氏の国葬反対論ともリンクしたのは周知の通りだ。政府関係者は「首相も党執行部もこれほど問題が大きくなるとは想像していなかった」と語る。 

 このままではらちがあかないと考えた岸田は、ついに「本丸」に切り込むことを決意した。宗教法人法に基づく旧統一教会への調査だ。 

 10月17日、首相は衆院予算委の直前に文部科学相の永岡桂子や法相の葉梨康弘らを首相官邸に呼び、同法に基づく質問権を行使して教団を調査するよう指示した。政府は裁判所への解散命令請求を視野に入れている。 

 同じ日、消費者庁の有識者検討会は霊感商法や不当な寄付の救済などを盛り込んだ報告書を公表した。消費者担当相は発信力や突破力に定評がある河野太郎。岸田は河野をうまく使い、政府を挙げて旧統一教会問題に取り組む姿勢をアピールした形だ。 

 さらに、初入閣の永岡の国会答弁をバックアップするため、予算委が開かれる衆院第1委員室の座席を出入り口に一番近い位置に変更し、後ろに控える秘書官も2人に増員した。 

 ただ、質問権を行使できるのは、宗教法人に法令違反や公共の福祉の著しい侵害の疑いがある場合に限られる。信教の自由との兼ね合いから、これまで行使されたことはない。 

 解散命令の請求に関しても、10月5日の衆院本会議では岸田は「法人格の剥奪という極めて重い対応であり、信教の自由を保障する観点から、判例も踏まえ慎重に判断する必要がある」と慎重姿勢を崩していなかった。そこから2週間足らずで方針を変えたことについて、政府関係者は「野党の追及をかわしつつ、旧統一教会をたたいて支持率を回復させたいのだろう」と解説した。 

 問題は実効性だ。岸田の指示を受けた永岡は衆院予算委の初日、報告徴収・質問権行使の基準を明確にするため、専門家会議を設置すると表明。基準を踏まえて文科省の宗教法人審議会の意見を聞き、質問権を行使するという手順を示し、「年内のできるだけ早いうちに権限が行使できるよう手続きを進める」と約束した。 

 とはいえ、一足飛びに解散請求できるわけではない。これまでに裁判所から解散命令を受けた宗教法人は、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教(1996年)と霊感商法詐欺事件の明覚寺(2002年)だけ。オウム真理教は7カ月、明覚寺は3年かかった。 

 政府が旧統一教会に関する調査の終了時期を示さないことに対し、野党は「オウム真理教や明覚寺には質問権を行使していない。なぜ解散請求しないのか。時間稼ぎとみられても仕方がない」(共産党書記局長の小池晃)と批判している。 

 ただ、宗教法人法は「この法律のいかなる規定も、個人、集団または団体が、その保障された自由に基いて、教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを制限するものと解釈してはならない」(第1条)と定めている。 

 政府が拙速に結論を出せば、あしき前例を作ることにもなりかねない。首相周辺は「すぐ解散させろという野党の主張は法治国家として正しいのか。慎重に進めるのは当然だ」と難しさを指摘する。


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