2022-12-21

【激変する金融市場】大和証券グループ本社社長・中田誠司の 「資産管理型ビジネスモデルへの転換で」

中田誠司・大和証券グループ本社社長



ビジネスモデルの転換を


 ところで、世界(市場)はまさに混沌とした状況。

 11月中旬には、暗号資産(仮想通貨)交換業大手のFTXトレーディングが米国の連邦破産法11条の適用を申請。負債総額は数兆円とされ、仮想通貨業界では過去最高の経営破綻となる。

 また、メタやアマゾン・ドット・コムが1万人規模の人員削減を発表。さらにはテスラ創業者のイーロン・マスク氏は、買収したばかりのTwitter(ツイッター)の社員数を半分削減する方針を打ち出し、中には自発的な退職者が1200人規模で出るなど、米経済を牽引してきたネット業界も荒れ気味。

 米国の景気後退に加え、欧州のスタグフレーション(不況下での物価高騰)、さらには中国経済のバブル崩壊で先行き不透明感が増す。

 そうした中で国内の証券各社の業績も振るわない。2022年4―9月期の業績は、最大手の野村ホールディングスは純利益が184億円(前年同期比37%減)。大和証券グループ本社は純利益314億円をあげたが、前年同期比で37%減である。

 みずほ証券の純利益は131億円(前年同期比63%減)、SMBC日興証券は相場操縦事件の不祥事が重なり94億円の赤字を計上。

 欧米の金利上昇、急激な円安・ドル高など為替市場の混乱など市場環境の悪化で株式・債券、投信募集に伴う手数料収入での減収が響いた。

 同社関係者は、今後の見通しについて、全体に不透明な市場環境が続くとしながらも、「顧客動向を見ると、明るい兆しもある」とする。

 リテール部門のファンドラップ販売や外貨建て債・外貨建て預金の取り扱いが活発化しているのもその1つ。日本国内の企業業績を見ても、3分の1が最高益を計上しており、底堅い動きとの評もある。

 2022年はウクライナ危機の発生、資源・エネルギー価格上昇をはじめとするインフレが高進、欧米の金利上昇が起き、市場の波乱を招いたが、「今年7―9月期が業績の底」と見る動きもある。

 こうした混沌状況をどう生き抜くか─。中田氏は、「資産管理型ビジネスモデルへの転換」をこういう状況下だからこそ目指すと語る。

「フローの収益は多少下がっても、要は資産残高収益ですね。ファンドラップ純増だとか、投資信託とか外貨預金のように、ちゃんと資産を積み上げていく。それを強力に推し進めようと言っています」

 従来の証券業は、株式や債券取引に伴う仲介手数料を得るというブローカレッジ業務でやってきた。

「これからは資産をマネージしていくことが目的で、マネージするために、例えばこのアセット(資産)を入れ替えたほうがいいというときに、ブローカレッジ(手数料)が発生するという位置付けです。目的と手段が全く変わってしまったということだと思います。資産をマネージする。お客様の資産を管理してマネージすることが目的で、そのために、例えばファンドラップを使うとか、そのためにブローカレッジが発生するという関係ですね」


稲盛和夫氏の『覚悟』に……


 中田氏は1960年(昭和35年)7月生まれの62歳。1983年大和証券(現大和証券グループ本社)に入社。企画や人事畑を歩き、法人本部長、営業本部長、最高執行責任者(COO)などを経て、2017年に代表執行役社長・最高経営責任者(CEO)に就任という足取り。

 社長就任5年余が経つ今、コロナ禍にあって思う事は何か?

「細かなビジネスのことはいろいろありますが、中期経営計画がコロナ禍の中でスタートし、社員の心が折れずにやってこれた。ロングタームのKPI(重要業績評価指標)へ向かって、くじけず、めげずに取り組んでくれている。途中、迷ったときもあったと思いますが、今のところ、そういう方向に向かって一生懸命やってくれています」

 社長就任年6年目の今、経営者の決断として思い出されるのは京セラ創業者・稲盛和夫氏のことだと中田氏は言う。

 大和証券は京セラの主幹事証券。中田氏は30代前半の頃、事業法人部に所属し、稲盛氏が興した第二電電(当時、略称・DDI、現KDDI)や京セラが出資したタイトー(ゲーム事業)を担当。

 DDIが上場してしばらく経った1994年頃、まだマーケット環境が悪く、公募増資ができにくい時のこと。大和証券の役員や中田氏ら担当者が状況を説明していると、稲盛氏が言った。

「マーケット環境が悪いのは、自分も理解しています。ただ、こういう悪い環境でも、いい企業の株式が出されれば、それはちゃんと売れるということを世に知らしめましょう」

 この言葉に、若き日の中田氏は感銘を受けた。厳しい環境下で、新しい投資に向かうときの経営者の決断、覚悟である。

「第二電電をつくられた経緯を見ても、私心なかりしかということを何回も自分に問われた。そして、世のため人のために第二電電の旗揚げをされたし、その思いを公募増資のときにも発揮されたと思っています」

 証券界は今、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人口知能)活用で時代の転換期にある。

 デジタル人材の育成、あるいは外部からのキャリア採用を含めて、『人』をどう育てていくかという課題。

「当社も創業120周年を迎えました。大和証券グループとしての揺るぎないDNA(遺伝子)、経営理念を大事にしながら、いろいろな人材が集まることで、いい意味での化学反応を起こしていきたい」

 混沌とした状況にあって、「2023年の日本は世界で経済も成長率も相対的に高い。もう1回日本に投資を呼び込むことができる年だと思います」と語る中田氏。覚悟の年である。

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