2022-12-20

野村不動産社長・松尾大作の「神は細部に宿る」精神 「新しい街づくりは小さなことの積み重ね」

松尾大作・野村不動産社長



環境変化に対応した新たな組織づくり


 不動産を巡る環境は日々変化を続けており、それに対応した組織づくりも進めている。野村不動産は14年、開発企画本部で「法定再開発」や「マンション建て替え」の専門部隊を組成し、首都圏で30件以上、全国で50件近い再開発に参画。

 22年4月には「事業創発本部」を設置。老朽化した公共施設や複合用途の公有地、学校法人・医療法人の施設・土地、PPP(Public Private Partnership=官民連携)など近年増加している新しい需要を専門で掘り起こす組織となっている。

 この部署は、野村不動産が中野区とともに進めている、中野サンプラザ跡地を含む再開発「中野駅新北口駅前エリア拠点施設整備事業」も所管している。

 これらの新たな部署の設置で「単発の入札案件を手掛けるだけでなく、重層的に需要を捉えることができるようになった」と手応えを感じている。

 建築費については、コロナ前から労務費の上昇が始まっていたが、コロナ禍、ウクライナ戦争、さらには為替の円安が加わって、さらなる高騰を招いている。「この対応は大きな課題」。 数年先までの建築工事は発注済みで、あとは追加工事費をいかに抑えるかということになるが、問題はこれから開発する物件。建築費に見合った用地の取得が難しくなる中、「価格が上がってもお客様にご納得いただくために、これまで以上に商品企画に工夫が必要になる」。

 コロナ禍以降の物件では、テレワークスペースを充実させたり、感染防止のために非接触型機器を導入、電気自動車(EV)の充電設備の設置など、様々な付加価値を付けている。

 さらにZEH(net Zero Energy House)化、再生可能エネルギー設備を標準化。コストは上がるが、環境性能を高めることで、購入者は住宅ローンにおいて借入額や控除額で優遇措置を受けられるといったメリットが出る。「トータルで商品力を上げて、お客様のご評価を得られるようにしていく」。

 マンション価格の高騰が続く中、市況に変調を来すのではないか?という懸念の声は絶えない。それに対して松尾氏は「人口減少で供給戸数が減っているのではなく、我々事業者は『出したいけれども出せない』状況。需要自体は底堅い」と強調。

 一方で「その状況にあぐらをかいてもいけない」と続ける。消費者マインドは理屈では測れない世界だということは、30年に及ぶ不動産開発の経験で体に染み付いている。一旦マインドが冷え込むと、実体経済以上に落ち込むこともあり得る。

 その点で懸念されるのが、日本における金利上昇。今、首都圏を中心にマンション価格が上がっても売れているのは、低金利で資金が借りやすくなっていることが大きい。

 足元で、すぐに金利が上がる状況は想定しづらいが、物価は上がっていく。マンションはより「高い買い物」になるということ。「この2年ほどは各社とも出せば売れる状況だったが、今後は選別が激しくなり、優勝劣敗がはっきりしてくるのではないか」と見る。より「質」が問われる時代になっている。

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