2023-01-05

第一生命HD・渡辺光一郎会長「産業構造が大きく変わる今、リスキリング、リカレントなど産学で教育の見直しが必要」

渡邉光一郎・第一生命ホールディングス会長



雇用制度が変わる中で…


 ─ 今、日本でも従来の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に移行する企業が増えてきています。こうした雇用制度との関係は?

 渡邉 その意味で、日本型雇用システムに、もう少し柔軟性を持たせなければいけないと思います。柔軟性を持たせた雇用制度に変わると、円滑な労働移動を進めることが可能になるんです。この新しい産業構造への円滑な移動を実現する時には、どうしても「ジョブ型雇用」の要素を入れていく必要があるのだと思います。

 グローバル化した企業は、役員層などから「ジョブディスクリプション」(職務記述書)を導入し、職務を明文化し始めています。

 しかし、現段階の日本の雇用制度を前提とした場合、新入社員までジョブ型にできるかというと、やらない方がいいと思います。若年失業者が増えるだけです。国内の若年層の要素と、グローバル要素を分けるという考え方が、現実に出てきています。

 欧州などは、社会構造がジョブ型となっているのですが、日本は、まずは雇用制度の見直しと合わせた段階論を取る必要があります。

 ─ 一律にジョブ型にするのではなく、自らの状況に合わせた導入が必要だと。

 渡邉 ですから、そうした企業は「メンバーシップ型」とも「ジョブ型」とも言わず、「自社型雇用システム」という言い方をしています。日本は、それぞれのグローバル化の深度によって、メンバーシップ型とジョブ型を組み合わせる「自社型雇用システム」で行こうじゃないかというのが、経団連の整理です。

 ─ 自社の判断でハイブリッド型にしていくことも大事だということですね。

 渡邉 ええ。ただ、この時にはコアの人材ゾーンの部分にはジョブ型を入れるべきだとも考えています。そしてそこにリスキリングやリカレントを導入していく。そうすると、その構造が全体で回るようになります。

 政府は、こうした動きが産学で起きるようなリカレントの支援、大学の構造が変わるような支援をする必要があります。

 それをリカレントと呼ぶかは別ですが、欧米の大学には、社会人がどんどん入っています。今の日本では、どうしても18歳の人達が行くイメージですが、リカレントが進んでいけば、大学はもっと社会に開かれた存在になるべきなんです。欧米の大学は、社会に開かれた存在になっています。今、日本の大学も、ようやく、その方向に動き出しました。

 ─ 長くメンバーシップ型が定着してきた日本にジョブ型が入ってきているわけですが、雇用の流動性が高まる中での企業と個人の関係をどう考えますか。

 渡邉 大事になるのはエンゲージメント(良好な関係)の強化です。企業の外に人材が出て行ってしまうから教育しないという考え方ではなく、社会全体で教育をしなければいけないということです。

 仮に企業の外に出て行ったとしても、また戻ってくるなど、循環すればいいのだと思います。

 ある経営者の方が、経団連の会議で「当社は『いずれ戻ってこい』といって、喜んで送り出すけれども、そうすると本当に戻ってくるんです」という話をされていました。

 そうした柔軟な姿勢の企業であれば、当然いい人材が集まってきます。グローバル競争をする企業の経営者には、こうしたセンスが求められます。給与を上げることや、社内の教育制度の充実も必要です。

 エンゲージメントを高める経営をすれば、送り出した後でも、その経営に憧れる優秀な人材が集まります。こうした好循環を作り出すことが、これからの企業に求められていると思います。

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