2023-02-10

【木を原料に】王子ホールディングス・磯野裕之社長「森林資源で新たな領域を開拓していく」

磯野裕之・王子ホールディングス社長




民間企業最大の森林資源をどう活用?

 ─ 技術革新によって需要が開拓できると。

 磯野 そう思っています。先程お話したのは紙ベースの技術開発ですが、もう一つ、別の世界があります。

 それは森林資源をベースに、木材の中にあるセルロース、ヘミセルロース、リグニンという3つの主要成分をどう活用するかということです。

 例えば、現在研究を進めているのが、バイオエタノールです。実用化できれば、「SAF」(Sustainable Aviation Fuel=持続可能な航空燃料)などにも使用できます。このSAFはトウモロコシやサトウキビなどでも研究が進められていますが、非可食である木質繊維からつくることも可能です。

 他にも、ヘミセルロースから医薬品をつくることができます。現在は子会社の王子ファーマで、人工透析薬向けの医薬品原薬の開発を進めています。血液凝固を防ぐのに使うものですが、現在の主流は「ヘパリン」という薬品で、豚の臓器から原料を採取しています。

 宗教的な理由でイスラム教徒の方々などへの使用は難しいという面がありますから、木質繊維から代替品をつくることができれば、需要があるのではないかと思います。

 ─ 今後の可能性が広がりますね。

 磯野 伝統的な情報を伝える紙が減少する中、「木を原料に何ができるか」という世界に行こうとしています。22年5月に「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」という存在意義(パーパス)を発表しました。

 健全に育て管理された森林は、二酸化炭素を吸収、固定するだけではなく、 洪水緩和、水質浄化等の水源涵養、防災という機能の他に、生物多様性や人間の癒し、 健康増進等にも貢献する効果があります。森を育てて、その森の資源を活用して製品を開発することで、この時代を素晴らしい時代へと動かしていけるのではないかと。

 ─ 王子HDは民間企業として日本で最大の森林資源を持っていますね。

 磯野 これも大きなテーマです。国内に約19万ヘクタールの社有林を保有していますが、まだ有効活用ができていません。

 社有林が山深い位置にあり、林道がないこと、林業に携わる人が高齢化し、減少の一途であることがネックとなり、伐採、植栽、育成が難しい環境にあります。

 まずは、伐採ができ、植栽、育成ができる環境を整えることから始める必要があります。それさえできれば、伐採した木は製材にでき、例えば住宅に活用することもできるようになります。製材以外は木材チップとして燃料にできますし、用途はいくらでもあります。また、同時に再生可能な資源として、将来的な原料の確保にも繋がります。

 ─ 本社ビルの1階エントランスも、木の雰囲気にリニューアルしていますね。

 磯野 そうなんです。他にも、我々は社有林を「王子の森」と呼んでいますが、この活性化に向けて22年10月に「王子の森活用推進部」を設置しました。これまで、例はありませんが、今回は社内公募により募集を行いました。

 非常に多くの人の応募があり、選考するのが大変だということで関係者からは嬉しい悲鳴が上がっていますが、非常に夢のある取り組みだと思っています。

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