2023-02-10

東レ社長・日覺昭廣氏に直撃!「繊維も樹脂も『ナノレベル』でコントロールする技術開発で、新領域開拓を!」

日覺昭廣・東レ社長



世界で戦うため、政策は「イコールフッティング」を

 ─ 足元で原材料高騰が続いていますが、一方で製品価格への転嫁が難しかったり、タイムラグがあるなどして、完全に吸収するのが難しいという問題がありますね。今後をどう見通していますか。

 日覺 この状況は当分続くと思います。その上で日本は本気で考える必要があります。というのは、例えば今の日本は円安などもあって、従業員の給与水準が韓国などより安くなっています。1人当たりGDP(国内総生産)も台湾に抜かれるような状況です。

 私は、これは本当に危機的な状況だと思っています。このままでは、海外から仕事をしに来る人も、日本では稼げないから来たくないということになってしまいます。

 やはり円安は、輸出などにはいいわけですが、結局は国力の低下を表しています。逆に言えば、給与を上げて、物価も高くするなどして、日本全体のレベルを上げるという方向への転換を、ここで真剣に考えないといけないと思います。

 ─ 厳しい状況下でも、給与水準を上げるなど頑張っている経営者がいるのは救いです。

 日覺 ええ。私はいつも言っているのですが、「安くていいもの」というのは、これまで日本の特徴でした。これは産業が発展していない時期に、競争力で世界を席巻するための大きな要素になっていました。

 しかし、今は世界全体でレベルが上がってきていますから、日本だけが「安くていいもの」にこだわっていると、価格が上がらないことで結局自分の足を引っ張ってしまい、国内の給与が上がらないという状態を招いてしまいます。

 今、海外と日本でモノの値段を比べると、全然海外の方が高いという状態になっています。ですから、日本もモノの値段を上げ、給与を上げ、少なくとも海外に負けないようなレベルに持っていく必要があるのではないかと思います。

 ─ 今は世界的に政治と経済が密接につながる時代ですが、生産性向上を担うのは民間企業です。改めて国と企業との関係をどう考えていますか。

 日覺 11年の東日本大震災後の「六重苦」と言われた時から、国はイコールフッティング(同等の条件)にすべきだと言い続けています。何か恩恵が欲しいとは思いませんが、いろいろな意味で足を引っ張ったり、ハンディを与えないで欲しいと。

 例えば、韓国と日本を比較する時に、かつてはサムスンとシャープがよく例として出されていました。もし、シャープが韓国の企業だったら十分な利益を出しているわけです。やはり、日本にいることによって様々な制約がある。逆に韓国は大企業を優遇する政策を取っているのです。

 日本企業は強いですから、優遇政策をやって欲しいとまでは言いませんが、先程申し上げたように、少なくともイコールフッティングにして欲しいですね。同じ土俵で戦うようにしてもらわないと、これだけハンディを背負って戦えというのは、少し難しいのではないでしょうか。

 ─ 世界第2位の経済大国となった中国も政府が関与して国営企業を成長させていますからね。

 日覺 そうです。中国は国が関与することで、いわば資本主義社会の競合を倒し、残って一人勝ちになったところで、そこから改めて仕組みをつくり直せばいいと考えているように見えます。

 アメリカにしても、産業政策で国の関与は深い。結局、世界中の国が、自国生産などにある程度恩恵を与える方向で進んでいますが、日本はどちらかというと、自国企業に恩恵を与えるのは悪だという人が多い。こうしたことから変えていく必要があると思います。

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