2023-03-02

岸田首相はなぜ、植田和男氏を日銀新総裁に選んだのか?

日本銀行本店




微妙な状況の日本経済

 黒田異次元緩和がそもそもスタートしたのは、デフレに沈んだ日本を再生することにあった。物価目標年率2%ということがなかなか実現できず、異次元緩和はついに10年に及ぶ。この間、コロナ禍、ウクライナ危機が起こり、資源エネルギー、食糧を中心に大幅に値上がりし、世界にインフレの波が押し寄せる。

 日本もすでに4%以上の物価上昇である。だからといって、金利をただちに引き上げるとすれば、インフレと同時に国内経済は大打撃を受ける。

 今の4%の物価上昇は原材料上昇によるコストプッシュインフレであり、日本経済の生産性が上がったゆえの上昇ではない。つまりは日本の生産性を上げるという命題は今も重く日本経済にのしかかる。

 岸田政権は「新しい資本主義」を標榜し、特に賃上げによる国民所得の向上を図り、併せて消費拡大、そして経済成長という道筋を描く。

 産業界もこれに呼応し、賃上げに動く企業が大企業を中心に出ており、また原材料上昇に伴う製品価格引き上げの動きも出始めた。

 しかし一方で、企業数で日本企業の99%、労働者数で7割を占める中小企業は賃上げや製品価格引き上げに動くに動けない状況も続く。結局はアベノミクスの積み残しである「第3の矢」(成長戦略)をいかに推進していくかにかかる。その意味で植田日銀総裁の金融政策だけでは立ちいかないという日本の現実である。


岸田首相の「決断」

 岸田首相はなぜ、植田氏を日銀総裁に選んだのか?

 ここへ来て岸田政権は政権幹部の失言問題などで支持率が低下していた中、日銀総裁人事で新機軸を打ち出した。そしてアベノミクスの存続を強く主張する安倍派の関係者と、それを支持する民間人が陰に陽に岸田政権に〝圧力〟をかけてきていた。金融政策と財政出動で、成長戦略まで達することができなかったアベノミクスには否定的な見方も一部にある中、成長への弾みをつけたいという思いが安倍派にはある。そういう流れの中で岸田政権側も、「アベノミクスの成果の上に新しい戦略を打ち出すというスタンス」(市場筋)。

 自民党内にあって弱小派閥の岸田派を率いる首相にとって、しがらみがある中で、いかに自分らしい決断、戦略性を打ち出すかは政治家・岸田氏にとって大きなテーマといえよう。

 ある政界関係者は語る。「今年1月4日の伊勢神宮参拝の際、岸田首相は『天真爛漫』としたためた。これはおそらく自分の思いを伸び伸びと、そして決断を持って政策を実行していくという気持ちの表れではないか」という見方。政治家としてやるべきことをやるという首相の思いである。

 安倍元首相の政策の流れを考慮しつつ、自分の持ち味を打ち出したいという心境。その中で植田新総裁が誕生する。

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