メディアの「大誤報」
2月6日(月)の日本経済新聞朝刊には「日銀総裁を雨宮氏に打診 政府、与党と最終調整」という見出しが躍った。しかしこのことは、「完全なる大誤報」(市場筋)になった。
一連の日銀総裁報道は新聞社の政治部主導で行われてきた。
10年前の黒田総裁誕生の時は産経新聞がスクープ。日経始め他社は完全に面目を潰した。黒田氏を日銀総裁に抜擢したのは、故・安倍晋三元首相。安倍氏と近いと言われる産経新聞の政治部関係者が感触を得てスクープにまで持っていったという見方がもっぱらである。
このことが他の新聞社にとってトラウマとなって、特に各社の政治部関係者は政界指導者の動向や発言に神経を尖らせていた。
その中で、「おそらく雨宮氏に政界筋から打診があったという情報を掴んでの第一報になったのだろう」と推測する金融関係者もいる。果たして雨宮氏が官邸筋から打診があったのかどうか。日経紙は「雨宮氏は就任辞退」と書き続けているが、打診があったかどうかは雨宮氏も明言はしないであろうから、真相はヤブの中である。
いずれにせよ、今回の日銀総裁選びが政治マターとして動いていたということ。それだけに、学者出身の植田氏の日銀総裁就任は内外で驚きを持って受けとめられた。
しかし、新総裁の職責は実に重い。2月10日(金)の夕刻、「日銀新総裁に植田和男氏を起用へ」という報道が流れた際、為替は円高方向にブレた。一時、1ドル=129円台と値上がりした。しかし、駆けつけた記者団に植田氏が「当面は金融緩和を持続する」と語った途端、131円という円安方向になった。新総裁の発言一つで短時間に為替が揺れ動くのが、今の日本が置かれた状況である。
なかなかデフレ的気分から脱出できない日本。一方で国債を含む借金はGDP(国内総生産)の2.6倍に膨れ上がり、金利が上がれば借金の負担が重くなり、日本の成長を阻害する。関係筋によれば金利が1%上がれば、金融機関を中心とする民間の国債の損失分は35兆円に及ぶという試算もある。
いつの時点で「金利がつく時代」へ向けて植田氏は決断するのか、その動向に内外の関心が集まる。