2023-03-14

「市況に左右されない事業を」三菱UFJモルガン・スタンレー証券・小林真の「ウェルスマネジメント」戦略

小林真・三菱UFJモルガン・スタンレー証券社長




機関投資家向け商品を「小口化」して販売

 その意味で、証券会社のあり方はかつてとは大きく変わった。以前であれば各社は手数料収入を求めて、顧客の短期売買を期待する面が大きかった。それが今は顧客からの「ストック資産」をいかに増やすかが重要視される。三菱UFJMS証券では19年から「アドバイザリー型」のビジネスモデルに大きくカジを切った。

 そして、小林氏は今後さらに目指す方向として「本邦ナンバーワンのウェルスマネジメントハウス」という目標を掲げる。

 ウェルスマネジメントは「富裕層向け資産運用」のこと。このビジネスへの注力は、前述のように経済の浮き沈みに業績を左右されがちな証券会社の経営を安定させることにつながるとも小林氏は見る。

 世界有数の投資銀行である米ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは、直近の決算で明暗を分けた。投資銀行事業とリテールバンク事業が不振だったゴールドマンに対し、モルガン・スタンレーは「ウェルスマネジメント」の好調で好決算となったのだ。

 このビジネスでの視点は短期売買ではなく「長期保有」。顧客のポートフォリオをきちんと構築できれば、長期の保有につながり、ストック資産も増える。「ストック資産から得られる収益が上がれば上がるほど、証券会社の収益は安定する」(小林氏)

「本邦ナンバーワン」という時には、野村ホールディングスや大和証券グループ本社を凌ぐことを意味するが、どういう道筋で達成しようとしているのか。

 前述の19年の「アドバイザリー型」への改革の際に、三菱UFJMS証券では営業担当者の収益目標、販売目標などの、いわゆる「ノルマ」を撤廃。それに替わって「ストック資産」の純増と、顧客ロイヤルティ(企業やブランド、サービスなどに対する愛着や信頼)を数値化するための指標であるNPS(Net Promoter Score)が評価の軸となった。つまり、顧客からの評価を重要指標にしたということ。

「社員には『お客様にアドバイザーとして最も信頼される存在になりなさい』と伝えてきた」と小林氏。

 だが、それだけでは収益向上にはつながらない。そこで同時に、投資戦略、商品戦略、デジタル戦略の追求で収益基盤の強化も進めてきた。

 投資戦略ではモルガン・スタンレーの知見を活用して投資の参考になる資料である「GMAP」(Global Macro & Asset allocation Perspectives)を顧客に提供。モルガン・スタンレーの視点を、日本の投資家に生かしてもらう狙い。

 そして商品戦略では、21年に注目すべき金融商品を発売。それまで大口の機関投資家しか投資できないとされてきた「未公開株(プライベート・エクイティ=PE)ファンド」に小口で投資できる手法を開発したのだ。

 数十億円から100億円が投資単位だったPEファンドに1億円から投資できるということで、富裕層の個人投資家が集まり、現在までに累計700億円以上と「世界でも類を見ないくらい、個人投資家向けに販売した実績がある。PEファンド側からの評価も高く、我々の強みになっている」(小林氏)

 この商品開発の背景には、まず小林氏自身がM&A(企業の合併・買収)に関するファンナンスの仕事などを通じて、PEファンドとの関係を構築できていたことが大きい。さらにグループの三菱UFJ信託銀行と連携したことで、1億円程度から投資できる商品を組成できた。

 PEファンドは運用期間が10年程度と長く、流動性が低いため、機関投資家でも投資が難しい商品。それを商品設計の工夫で、10年保有してもパフォーマンスが上がることが見込める商品に仕上げた。

 同時に、単品で保有してもらうのではなく、PEファンドが株式や債券との相関関係が低いという特徴を生かして、顧客にとって安定的なポートフォリオ運用ができるという点を強調。

「お客様からは『PEファンドに個人で投資できるとは思わなかった』、『こうした投資チャンスを待っていた』という声をいただくことができた」

 さらに20年8月には、それまで別会社でウェルスマネジメントを手掛けていたグループ会社・三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券を統合し、機能の強化を進めた。

 新たな投資商品を信託銀行との連携で開発したように、複雑化する投資家のニーズに対応するためには法人向け、個人向けともに銀行・信託・証券のさらなる連携が不可欠。

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