─ 人類はこれまで新しいテクノロジーを取り込んできましたが、これほど戸惑いが大きかったことはなかったですね。
小宮山 もしかすると産業革命で機械が導入されたことと同じぐらいに大きなことかもしれないと思います。ただ、産業革命で機械が入り出したときには、経済が膨張していました。だからラッダイト運動などが起こって大変でしたが、少し長期で見れば機械で人がいらなくなった雇用の減少を成長が吸収しました。
しかし今は地球の有限性によって、いろいろなものが飽和しつつあります。そうした状況で生成AIが入ってきた。それによって経済が膨らんでいって雇用問題が解決されるということはおそらくないでしょう。
もしかしたら、労働の有無にかかわらず、政府が全ての国民に一律の現金を無条件かつ定期的に支給するベーシックインカム、あるいはその弊害、酒や麻薬にふけってしまうかもしれないからと、食べ物と教育と健康保険といった必要不可欠なものだけを支給し、あとは自由に競争させるという「ベーシックサプライ」のような考え方も出てきています。そうした時代が案外早く訪れるのかもしれませんね。
─ チャットGPTの登場で、人とは何かという根本哲学に戻ってきますね。
小宮山 そうだと思います。人の生き方や社会のあり方をもう一回考え直すということです。
─ リーダーはどう振る舞うべきだと考えますか。
小宮山 リーダーは発言をして議論する、その中核になることが大事ではないでしょうか。これについて答えを出せる人はいません。リーダーが「これはこういうものだ」と言っても意味がありません。答えは分からなくても議論していくことが大切です。
とにかく今は技術の発達が速すぎます。AIも少しずつゆっくり進化してくれればいいのですが、そうではありません。私もそのスピードに戸惑っています。米国でもそういう議論になりました。そういった時代をどのように生きていくべきか。一人ひとりが考えていかねばなりません。