2023-06-01

白井さゆり・慶應義塾大学総合政策学部教授「物価目標2%を5年で総仕上げする。これが植田総裁の発言のポイント」

白井さゆり・慶應義塾大学総合政策学部教授




「内向き」になった日本を脱するために

 ─ 日本の全企業数のうち99%が中小企業ですが、賃上げすら難しい企業も多い。

 白井 今回、政府が賃上げをプッシュしましたから、皆さん「やらなければ」ということで実行していますが、持続性があるかは分かりません。人口と働き盛りの労働人口がさらに減少していく中で、内需拡大と企業利益の改善の下で賃金上昇につながる好循環の実現が可能なのか、日銀も情報発信を工夫していくとよいと思います。

 一方、インフレが安定的に2%を実現する場合、金融緩和が正常化されているはずなので、長期金利が現在の0.5%以下から2%超に上昇する可能性があります。それが企業にとっていいのかは、簡単には言えないことだとも思います。

 さらに日本では大企業も若者も全体としては内向きになっている。上場企業を見ていても、果敢に世界で戦っていこうというところが少ないです。

 ─ 日本の上場企業の多くは海外で利益を上げているけれども、世界と勝負してやろうという気概が見えない?

 白井 ええ。中国や東南アジアの企業のダイナミズム、成長への意欲は非常にすごい。今のままでは意欲で負けてしまう。

 また学生も、私の身近なところで見ても、日本に来た留学生がさらに他国に留学するのに対し、日本の学生は海外への興味が薄いのが気がかりです。

 ─ 企業でも元気があるのはファーストリテイリングなど、オーナー系の企業ですね。

 白井 そうですね。これまで日本では「コーポレートガバナンス・コード」を導入し、社外取締役や指名・報酬委員会の設置などに取り組んできましたが、「稼ぐ力」にはあまり貢献してないように見えます。形式だけ海外のやり方をしても駄目だと感じています。もっと起業家精神、世界に伍していくぞという経営陣の意識と社員の意欲を高める工夫が必要だと思います。

 ─ 挑戦する意欲が大事だということですね。

 白井 そうです。上場企業はコードの導入以降、取締役会の構成や情報開示に時間をかけていますが、企業の稼ぐ力とはあまり関係がないように思います。

 日本はいま内向きでディフェンシブになっているように感じます。失敗すると「叩く世界」では政府も、企業も失敗しないように慎重になるため、変化への対応が遅れがちになる。

 日本のGDPの世界シェアは5%を下回り、低下を続けており、もっと世界に目を向けるべき。外国人、外国の企業がどんどん日本に入ってきて、競争が促進される環境が必要だと思っています。

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