財政健全化を図る方針を常に持たなければ…
─ 24年度の予算案が出されましたが、依然として国債依存が3割あります。この状況に対して経済人からは危惧する声が強いわけですが。
宮澤 我々も全く同じ気持ちなのですが、残念ながら自民党の中にも、数年前に米国で言われた「いくら借金をしてもいいんだ」ということをおっしゃる方がいないわけではありません。
財政を健全に保つことは大変大事だと思いますし、現段階で日本国債が破綻することはないにしても、放漫財政を続けていると「キャピタルフライト」が起きかねません。
つまり、日本に投資する投資家、国民含め、日本ではなく海外の金融商品がいいとして、2000兆円と言われる個人金融資産が海外に向かってしまうことが危惧されます。これによって円の信認が失われ、大変な円安になることが一番怖い。ですから、財政の健全化を図るという方針は常に持っていなければいけません。
このことは、我々が中心になって主張をし続けていくことだろうと思います。自民党税調は人の嫌がることを、大きな「刀」を持ってやらなければいけません。そこが揺らいでは国家の危機につながりかねませんから、しっかりやっていきます。
─ 日本はGDPがドイツに抜かれて3位から4位になり、1人当たりGDPでは31位となっています。生産性向上と税の関係をどう考えますか。
宮澤 正直に申し上げれば、生産性向上は税よりは予算の方が効き目は高いのではないかと思います。
先程の中小企業に頑張っていただくという話との関連で言えば、企業の最盛期は30年と言われます。いわば同じことをやっていたら30年しかもたないということです。やはり違うことに挑戦するのが企業にとって非常に大事なことだと思います。
その意味で、中小企業の経営者の平均年齢が60代というのは、やはり高すぎる。デジタル化の時代の中で、経営者の代替わりを促進しようということで18年に「事業承継税制」をつくりました。
これは財務省的に言えば非常識な税制でしたが、企業経営者を若返らせようという趣旨で設けた10年間の特別措置です。幸い、かなり使っていただいているようです。
─ 日本はスタートアップの育成も課題です。
宮澤 スタートアップが日本の成長の原動力であることは間違いありません。特にサービス業のスタートアップは今後日本を引っ張っていってもらわなければいけない方々ですから、税制改正でも、それなりの手を打ったつもりです。
ただ、米国の例を見ていると、スタートアップの経営者で成功された方は、社会の格差を助長する恐れがあることに注意する必要があると思います。
─ 宮澤さんは経済人との交流も多いと思いますが、何か注文はありますか。
宮澤 やはり守りに入っている日本の経営者が多いのではないかと感じます。また、米国的な経営を導入し、「モノ言う株主」が出てきたせいもあるでしょうが、配当を多くし過ぎている面があるし、自社株買いも多い。
また、手持ちの現預金が積み上がっている企業も多いですが、それは次のステップアップを図るために、しっかり投資していただくことが大事になっているのだと思います。