2021-06-18

【経営は誰のためのものか?】資生堂・魚谷雅彦の原点回帰論「日本的価値や良さで、グローバル市場に挑戦」

魚谷雅彦 資生堂 社長兼CEO



創業の原点に立ち返り 生き方を見つめ直す

 魚谷氏は2014年春、資生堂社長に就任。外部出身者として初めての社長である。

 1954年(昭和29年)6月2日生まれ。同志社大学を卒業後、77年にライオン歯磨(現ライオン)に入社。米コロンビア大学経営大学院に留学、MBA(経営学修士)を取得。91
年フィリップモリスの食品部門であるクラフト・ジャパン(現モンデリーズ・ジャパン)に入社、日本での事業の経営責任者を務めた。

94年日本コカ・コーラに入社、副社長を経て2001年に社長に就任。缶コーヒーの『ジョージア』をテコ入れし、『爽健美茶』、『紅茶花伝』などのヒット商品を手掛けて経営手腕が注目される。そして、06年会長となり11年に退任という足取り。

 こうした実績が買われての魚谷氏の資生堂入り。13年にマーケティング統括顧問に就任し、1年後の14年4月執行役員社長、同年6月代表取締役執行役員社長に就任した。

 資生堂社長に就任して7年。この間、魚谷氏は「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を標榜し、改革を断行。その中にあって、魚谷氏が大事にするのが創業の原点だ。

「最近の言葉でいうと、パーパス、ミッションとか、企業の使命が言われます。SDGs(国連が定めた持続的発展のための計17の目標)やESG(環境、社会、ガバナンス)もそうですね。わたしたち資生堂という会社は創業者以来、社会に対して価値を提供するとか、メセナといったことをやってきているんですね。そういうDNAを持っている会社」

 福原有信(1848―1924)。東京・銀座に1872年に調剤薬局を開き、西洋の薬学の知識を取り入れ、人々の命と健康に役立つ薬剤の販売に注力。また、従来の漢方薬にも西洋の科学性を取り入れて、購買者の信用を高めたといわれる。

 福原有信はわが国初の〝練り歯磨〟や化粧水を売り出すなどの才覚を発揮。二代目信三は株式会社「資生堂」の初代社長に就任。本格的に化粧品事業に乗り出す。

 社名の資生堂の『資生』は、中国の古典『易経』から取ったもの。

『至哉坤元、萬物資生(至れるかな坤元<こんげん>、萬物資<と>りて生ず)』─。
「すべての価値はこの大地から生み出されていくという意味です。自然を大事にしていく。そこに生命力が宿るということですね」と魚谷氏。

 100年に1度の感染症といわれるコロナ危機の襲来。何かと不安にさいなまれる昨今だが、そこを耐え、力強く生き抜かなければならない。それには何が必要かということで、創業の原点を見つめ直すことから、自分たちの生きる道をつくり出そうという魚谷氏の考えである。

日用品事業の売却を決断した理由

 構造改革は今も進む。同社は今年初め、ヘアケアブランドの『TSUBAKI(ツバキ)』など日用品事業(トイレタリー)を売却すると発表。売却先は英国系の投資ファンドである。

 資生堂のシンボルである『花椿(つばき)』をブランド名に冠した『TSUBAKI』。かつてはシェアトップに立つほどの勢いがあったが、最近は低迷。ここ数年、英ユニリーバのブランド『ラックス』やP&Gの『パンテーン』などのグローバルブランドが約10 %のシェアを維持するのに対して、『TSUBAKI』は約9%から約4%に低下したまま。

 資生堂はこの日用品事業を売却し、高級化粧品で勝負していくことを決断。

 この日用品事業の売上高は全体の9%。日本国内だけだと400億円強にとどまる。

 このトイレタリー事業は1959年(昭和34年)に始ま50有余年の歴史を持つ。1993年には売上高1000億円を超えていたが、その後尻すぼみで来た。

 今は、中国での販売が好調で、また1000億円位の売上を取り戻しているが、この先を考えた場合、「優先度が低い」という判断。

 魚谷氏が語る。

「ひと頃、石鹸などがお中元の需要とかでものすごくありました。資生堂のサボンドールとかは僕もよく貰いましたし、「スーパーマイルド」というシャンプーが大ヒットしたりとかね。後にはTSUBAKIがあるんですけどね。この事業は宣伝広告をすごくするので目立つんですが、残念ながら全体の事業の中では売上がずっと落ちてきている。僕が入った頃には事業部もなかったんです。変な言い方ですが、この事業に携わっている人は何となく目立たないし、新入社員でもそっちの事業に行くのは何か可哀想だ、みたいな事を社内でも言う人がいたりもしましてね。僕はライオンの出身でしょ。だからトイレタリー事業にはそれなりに知識と思い入れがあって事業本部を作ったんです。パーソナルケア事業本部を作って、200人位、日本でも社員を移管したりしてね」

 TSUBAKIのリニューアルや広告も打って、いくらか勢いを取り戻したかに見えるが、資生堂の中に置いたままでは、高級化粧品の〝二の次〟で終わりかねない。

「ここにいる社員に夢を持たせるにはどうすればいいか」と魚谷氏は考え続けた。
 トイレタリーの流通は、化粧品と違って、卸し(問屋)の機能を使う。研究開発、広告宣伝費の投入など化粧品とトイレタリーの両社は余りにも違いがあるという判断。

「とにかく、トイレタリーに携わっている社員に夢を持たせてやりたい」として、魚谷氏は売却を決断するに至る。

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本誌主幹 村田 博文

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