2022-02-16

【政界】安全運転の岸田政権に初めての試練 新型コロナ対策誤れば下り坂の危機

イラスト・山田紳



官邸は面会拒否

 首相官邸と、自民党の最大派閥を率いる元首相の安倍晋三の距離も徐々に広がりつつある。象徴的なのが「佐渡島の金山」(新潟県佐渡市)の世界文化遺産への推薦問題だ。

 文化審議会は昨年12月末、佐渡島の金山を推薦候補に選んだ。韓国政府は「戦時中に朝鮮半島出身者が過酷な労働に従事した」などと即座に反発。文化庁が「候補の選定は推薦の決定ではない」と注釈を付けていたため、2023年の登録に向けた期限の2月1日までに、日本政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書を提出するかどうかが焦点になった。

 自民党では1月18日、「保守団結の会」が佐渡市長らを招いて会合を開き、政府に速やかな推薦を求める決議をまとめた。代表世話人で新潟県連会長でもある衆院議員の高鳥修一によると、出席した安倍は「韓国政府に対してファクトベースのしっかりとした反論をすべきだ」と発言した。同会は官房副長官の磯崎仁彦を通じて岸田に決議を届けようとしたが実現せず、高鳥は「まあ、拒否されたということだ」と記者団に明かした。

 日韓関係は長く冷え込んだままだ。昨年1月に着任した駐日韓国大使の姜昌一は、岸田はおろか外相の林芳正や前任の茂木とも面会できていない。そうした中で官邸や外務省が一貫して推薦に慎重だったのは、韓国側への配慮とは別の理由があった。

 15年に「南京大虐殺」に関する資料がユネスコの「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録された際、当時の安倍政権は「政治利用だ」と批判した。日本政府が加盟国に働きかけた結果、昨年、加盟国による異議申し立てを認める制度が導入された。

 外務省幹部は「日本が逆の立場になったからといってルールを変えるのはよくない」と指摘する。世界文化遺産にはこの制度は適用されないものの、ダブルスタンダードになりかねないというわけだ。

 しかも、世界遺産委員会が23年の登録を不可と判断した場合、再度推薦しても認められる可能性は極めて低い。岸田は「登録を実現する上で何が最も効果的かという観点から総合的に検討している」と述べ、自民党内の保守派をけん制した。

 ところが、政府が結論を出す前にマスコミ各社が「推薦見送りへ」と相次いで報道。安倍は1月20日の安倍派の会合で「最終的には岸田総理はじめ政府が決定することだが、論戦を避ける形で登録を申請しないというのは間違っている」と政府の優柔不断ぶりを批判し、「いくら支持率が高くても、自民党の岩盤支持層が崩れたら選挙は危うくなる。岸田はそこをわかっていない」と周囲に不満を漏らした。

 財政政策でも岸田と安倍のさや当てが続いている。安倍が、自民党政調会長で積極財政派の高市早苗を後方支援するのに対し、岸田は1月14日の経済財政諮問会議で「財政健全化の目標年の変更が求められる状況にはない」と表明した。

 その場で内閣府が示した最新の試算によると、経済の高成長が続けば基礎的財政収支(プライマリーバランス)は26年度に黒字化し、歳出効率化の努力次第では政府が目標に掲げる25年度の黒字化も視野に入るという。しかし、「試算の前提が甘い」と指摘する専門家は少なくない。岸田政権が成長戦略を具体化する施策を打ち出さない限り、財政健全化は絵に描いた餅で終わる。

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