2022-02-24

【政界】「聞く力」で第6波にも対応した岸田政権の留意点

イラスト・山田紳



官僚のゆるみも

「聞く力」のなせる業か、さまざまな方針を次々と変える岸田を「朝令暮改」「優柔不断」と見る人よりも「柔軟」と評価する人が多いようだ。順調に見える岸田政権だが、足元では官僚のゆるみが少しずつ露呈し始めている。その象徴が「佐渡島の金山」(新潟県)の世界文化遺産登録を巡る騒動だった。

 韓国が佐渡金山で戦時中に朝鮮半島出身者が「強制労働」させられたと反発する中、岸田は逡巡した末に国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦を決断した。この過程で外務省は岸田を後押しするどころか、一貫して「推薦するために何をするか」ではなく、「推薦させないために何をするか」で動いた。

 韓国は2015年に長崎・端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録される際も、軍艦島で「強制労働」があったと主張した。日本政府は元島民の証言や当時の資料を基に反論したが、韓国は積極的にロビー活動を展開。現在も国際場裏で「日本たたき」を行う。

 その悪夢の再来を避けたい外務省は岸田らに推薦を断念させるため、▽3月の韓国大統領選で反日の革新系候補が勢いづく▽弾道ミサイルを頻繁に発射する北朝鮮への対応で重要な日韓関係に影響を与える▽日韓の軋轢は米国も望んでいない――と「説得」。地元・新潟県選出の自民党議員は「推薦に向けて前向きな発言をする外務官僚はいなかった」と証言する。

 そもそも外務省は、文化庁が所管する文化審議会が佐渡金山推薦の是非を審査する過程でも同様の工作を行った。その結果、昨年12月末に推薦候補に選定した文化審は「選定は推薦決定ではない。政府内で総合的な検討を行う」と異例の注釈をつけた。

 年が明けて推薦の是非が焦点になると、「文化庁が選定しなければよかった」と漏らす外務官僚も。文化庁を所管する文部科学省が官邸への説得を積極的に行った形跡もなく、水面下では外務省と文科省の間で政治問題化したことへの責任の押し付け合いを繰り広げた。

 こうした「事なかれ主義」に基づくサボタージュ、もっといえば国益に反するような妨害工作は、「歴史戦」を掲げた安倍政権ではありえなかった。官僚ににらみを利かせた菅政権でも露見しなかった。岸田派の議員は「人のいい岸田首相が官僚になめられているから」とこぼす。

 官僚に付け入る隙を与えている形の岸田だが、一方で、したたかさものぞかせる。

 政府は当初、今国会で予定していた感染症法改正案の提出を見送った。病床確保に向けて国や都道府県と医療機関が結ぶ協定を法律上の仕組みとする内容で、岸田も就任直後は前向きだった。ところが年明けになると、「6月までに中長期的な課題をしっかり洗いだした上で法改正を考えていく」として方針転換した。

 ある自民党参院議員は「岸田首相なりの日本医師会への配慮だ」と明かす。改正案が成立すれば一定の条件の下で病床確保が義務となり、医療機関の負担が増えるとされる。日本医師会は自民党の有力な支持団体の一つ。7月10日の投開票が想定される参院選を前に日本医師会の懸念材料を先送りしたというわけだ。

【農林水産省】米国産牛肉の緊急輸入制限協議が長期化

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事