変わり得る力を持っている中国
─ 講演の主旨はどのようなものだったのですか。
西原 一言で言えば、「超克」という考え方です。
1つ次元を高め、対立しているものの上に共通のものをつくり出す考えです。そもそも対立はそう簡単に解決できるものではありません。歴史や感情が入ってくると、対立の解消は絶望的になります。しかし、対立をそのまま放っておけば戦争の恐れもある。できれば共通の利益を見つけ出すと対立の解決はできないが、超克はできるという考え方です。
判り易く言えば、国際社会が力をあわせて中国を「けしからん」と批判(対立)するのも必要な道でしょうが、他面、中国が反発し、これを無視する傾向になる(対立)のも否定できません。つまり対立は解消せず、むしろせり上がっていきます。
だからそうではなく、むしろ「あなたの国は良くなる方向に変わり得る力を持っている国ですよ。そうあって欲しいと願っています」と指摘する(超克)。こう聞けば相手は悪い気持ちにはなりません。
ただ、そういう国にさせることは政府にはできませんが、民間人ならできるのです。先ほども申し上げたように信頼を得ている人からは何を言っても中国人は耳を傾けてくれます。
─ 相手を一方的に批判するだけでなく対話をすると。
西原 ええ。「中国には理想社会をつくる力量がある。そういう力を持っているのだから、是非それを実現して欲しいと祈願している」と訴えたのです。
その際、中国の社会主義現代化への道を考える場合に「AI(人工知能)が人間の能力を超えるほどに発達したとき、人類の経済政治機構がどう変わるか」という視点を持ったら良いと提言しました。
例えば、日本や欧米が「選挙制度に基づく議会制民主主義」を採用しているのは、民意を正確に政治に反映させるためには選挙によるしかないと考えたからでした。人知に限界があった当時は必要不可欠でした。
そう考えると、AIが発達するにつれて民意を「選挙以上に」正確に把握できるようになれば、ただでさえ欠陥を含んでいる議会制民主主義はなくならないけれども弱体化していくのではないでしょうか。
逆に最近「民主主義と専制主義の対立」という言葉が国際社会でも使われていますが、AIが発達するにつれて、政治体制は一見昔のような専制主義と同じように見えるけれども、本質は全く異なってきます。今のような民主主義よりも、国民の声が統治に反映されやすい方向に変わっていくのです。