2022-10-28

世界が混沌とする中、経営者に求められる覚悟─ キヤノン・御手洗冨士夫の その国の文化、民族性に合わせた人事・雇用を!

御手洗冨士夫・キヤノン会長兼社長CEO

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急激な円安進行で〝縮む日本〟


 そして円安の急進行─。円安は原材料の輸入コスト上昇につながるが、一方で、製品の輸出代金は膨れるという〝プラス面〟もある。
 しかし、マクロ的に見ると、ドル建てでみた日本は縮小しているということ。日米の金利差でドル高・円安が急速に進行。1ドル=144円の現状(9月中下旬)が続くと、日本のGDP(国内総生産)は3・9兆ドル台と4兆ドル台割れになる。
 戦後、日本は高度成長を続け、1968年(昭和43年)に当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜いて、米国に次ぐ自由世界2位の経済大国になった。
 その後、改革開放路線を採った中国が経済成長の道を走り、2010年に日本を抜いて世界2位の座に就いた。

 コロナ禍、ウクライナ危機の中でインフレが進み、米FRB(連邦準備制度理事会)はインフレ抑制のため、金利引き上げに動いた。一方、日本銀行はゼロ金利政策から動けず、日米金利差がドル高・円安を招来。
 今年3月頃までは1ドル・110円台の為替相場も今は140円台。今年の日本のGDPは550兆円台で、年初までは5兆ドル弱か、4兆ドルの後半と思っていたところへ、4兆ドルも割り、GDP4位のドイツと並ぶ水準にまで落ち込む。

〝縮む日本〟─。世界(インターナショナル)の目で見ると、日本は縮み込んでいるということ。どう〝縮む日本〟を浮揚させていくか?


『平等』主義の日本『公平』を旨とする米国


 御手洗氏(1935年=昭和10年生まれ)は、日本を外から見つめる経験を若い頃している。
 1966年(昭和41年)、30歳のとき、米国キヤノン勤務を命ぜられ米国に赴任。1989年(平成元年)に帰国するまで都合23年間の米国駐在を務めた。
 30歳から53歳までの米国駐在。当初、キヤノンも米国市場にすんなり溶け込めず、米国キヤノンの立て直しも含めての米国勤務。そして後半は米国キヤノン社長として、米国の経営風土も体得した。
 このことは、日本の経営風土との違いをしっかり認識させられると共に、雇用をはじめ、経営のやり方はその国の文化、慣習、民族性などと絡むのだということを会得することにもなった。

「アメリカ社会は、公平を物事の判断の基準に据える。これはイコール(平等)じゃなく、フェア(公平)という概念。フェアというのは競争社会なんですよ。日本は平等を大事にする国。平等というのは非競争社会です」

 御手洗氏は、日本と米国の根本的な価値観の違いを、イコールとフェアという言葉を使ってこう説明する。
 これは社会の有り様として、どんな違いが出てくるのか?

「だから日本は、みんなが豊かになったけれども、学問なんか遅れているわけです。防衛力もないし、とがったものがなくなった。みんな平等。日本では、これが当たり前なんですね」

 御手洗氏は、日本の若者が大学を卒業して、企業社会に入る時の状況にも触れる。

「日本では、どんな学生生活を送っても、勉強した者もしなかった者も、会社に入ると初任給は同じ。これはアメリカでは考えられないことですよ。今まで22年間勉強してきて、一生懸命に努力した人の価値を日本ではくみ取ってもらえない。御破算で願いましては、となる。これは平等社会だからです。これに、誰も文句を言わないのは、平等が染みついているからです」

 米国はどうか?

「アメリカでそれをやったら大変ですよ。アメリカは、同じ学校から同じ日に同じ会社に入っても、会社のニーズによって給料は全部違うんです。アメリカは要る人を、要る時に、要るだけ採るんです。無駄がない。日本は一括して、バーッと何百人も採るわけです」

 物事には、プラス・マイナスの二面性が付きまとう。平等主義で構成メンバーが安心感をもって働けるとするなら、そのプラス面を活かしつつ、マイナス面を克服することも大事。

「ええ、物事を公平に考えたり、判断することも大事。働きのいい人には、いいなりに課し、悪い人には悪いなりに、ちゃんと働けるように持っていく。何もかも平等ではなくて、伸びる人はどんどん伸ばしてやらないといけない」

〝伸び悩む〟日本の立て直しへ、『平等』主義の課題克服は1つの大切な視点である。

本誌主幹 村田博文

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