2022-10-07

YKK社長 ・大谷裕明の混沌の今こそ、創業者 の『善の巡環』思想で

YKK 大谷裕明社長

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「現場」が見えにくいのが一番つらい

 ファスナーの最大手、YKKは世界72カ国で事業を展開(2022年3月現在)。全世界で扱うファスナーの95%以上は海外市場で販売している。日本で販売する本数は全体の5%未満でしかない。
 世界各地域での販売、生産の現場はどうなっているのか─。世界の現場の状況を常に把握しておかないといけないという大谷氏の思い。

「もし、今までのビジネスモデルでしたら、わたしは毎月、6地域に行かなければいけないわけです。アメリカへ行って、欧州に行き、アジアに行って、中国に行ってと。これは大変ですが、オンラインだと毎月6極の責任者と直接対話ができる。これは大変なメリットです」

 大谷氏は〝オンライン対話〟のメリットをこう語りながらも、「ところが、現場が見えてきません。これが一番きつい。いろいろな数字は見えても、費用がたくさんかかっているよねとか、あるいは生産がちょっとおかしいよねというのは、現場を見ないと分からないものなんですが、これが見えない」と強調。
 世界5極体制を敷き、6つの地域事業会社制を敷いているのも、各国・地域で民族、文化、嗜好、デザインの好みが違うし、そうした地域性に配慮してのもの。

YKKグループはファスナーのYKKと建材のYKK AP中核に形成。2022年3月期のグループ連結売上高は7970億円、営業利益601億円(営業利益率7.5%)を計上。2021年3月期は売上高6537億円、営業利益263億円(営業利益率4.0%)と苦戦した。
 2020年度(2021年3月期)にコロナ禍で消費活動が抑制され、原材料の供給も縮小、購入価格も上昇し、それらはコストアップの要因となった。

 どう対応したのか?
 大谷氏は、この〝ドン底〟状況を、逆に体質改革の好機にすべきと考えた。ガバナンスの見直しもその1つである。
「ガバナンスというのは、時間をかけてやるものじゃないと思います。誰がそれを決めて、その決定プロセスがしっかりと公正な中で決定されたものかどうかはっきりしておけば、それでいいと思うんです。わたしどもの最終決議機関は取締役会ですから、そこに懸けるべきものと、そうではなくて取締役で決めることができる問題というのを分けているし、その通りにプロセスを踏んでいればいいと」

コロナ禍で厳しい時に経営改革、体質改善を!

 1959年(昭和34年)生まれの大谷氏がYKK社長に就任したのは2017年4月。社長就任4年目にコロナ禍に遭遇。
 前述の通り、2020年(令和2年)は減収減益で、利益もやっと水面上に顔を出している状況。しかし、その〝ドン底〟のときにこそ、経営改革・体質改善を進めようと考えた。

「ええ、ドン底のときに、いち早くコストを低減するプロジェクトだったり、あるいは納期を早くすることやデジタル化を早くするプロジェクトを1年ほど前倒しで始めました」
 その改革が功を奏し、YKK本体の2021年度(2022年3月期)は売上高3481億円(前期比40%増)、営業利益423億円(同600%増)の増収増益となった。
 社長就任から5年が経ち、大谷氏はガバナンスを含めた改革に際して、どんな点に留意しているのか?
 グループはファスニング事業(グループ会社数67社、従業員数2万6983人)、建材のAP事業(同23社、従業員数1万6788人)、そしてその他事業(不動産、印刷、農牧などで16社、従業員数639人)で構成(2022年3月現在)。グループの中核であるYKKとYKKAPの連携はどう進めるのか?  まずガバナンスである。

「YKK株式会社が資本上はYKKAPの親会社ということで、今の相談役(吉田忠裕氏、前会長)が両社の社長及び会長を兼ねて、YKKグループのCEO(最高経営責任者)であるという体制だったときは、1人の人間がどちらも見ないといけなかった。そのときは大変な苦労をしておられたと思うんです。これを今は完全にYKKとYKKAPと事業も、しかも経営も分離しておるんですが、YKKグループということで内部統制であったり、ガバナンスは効かせる必要があるわけですね」

 大谷氏はグループ全体としてのコーポレートガバナンスの必要性があると強調し、次のように続ける。
「両社の社長はそれぞれの事業に特化して事業を推進していく。その代わり、会長がおりま
すので、YKKの会長はYKKAPの取締役を兼任する。YKKAPの会長はYKK株式会社の取締役も兼任する。内部的にはタスキ掛けというんですが、両者の会長が両社の取締役会に参加することによって、しっかりとコーポレートガバナンスを効かせているということです」

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本誌主幹 村田博文

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