2022-10-07

YKK社長 ・大谷裕明の混沌の今こそ、創業者 の『善の巡環』思想で

YKK 大谷裕明社長

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「雇用は守る」とのメッセージで…

 このコロナ禍にあって、各地域会社の幹部、そしてグループ会社の社員には、どんな言葉を投げかけたのか?
「2020年にコロナが勃発したときは、誰に聞いても、こうしたほうがいいでしょうというアドバイスを出せる人がいないんですよ。百年に一回の危機ですからね」
 コロナ禍がパンデミック(世界的大流行)として2年9カ月前登場したとき、どの国も、どの企業も、また誰もが有効な解決策を持ち得ていなかった。ワクチンは開発されたが、手探り状態が今なお続く。

 企業はその中を生き抜かなくてはならない。大谷氏はどういうスタンスで臨んだのか?
「わたくしどもの企業精神に立ち返って、とにかく社員の生活の保障と、あと安全を第一に考えるために営利重視からキャッシュフロー重視に変えてくれと」

 コロナ1年目から、欧米の主要都市はほとんどロックダウン(都市封鎖)に走った。経済はストップし、オーダー(注文)が入ってこなくなった。
 世界72カ国・地域で生産・販売活動を行い、商標登録は177カ国・地域に及ぶYKK。ロックダウンの影響は大きかった。
 予想外のパンデミックだが、キャッシュ(現金)の回転をストップさせるわけにはいかない。
 必要不可欠な投資は続行するとして、「ただ、不急なものもある。不急なものに関しては、投資の時期、いわゆるキャッシュアウトの時期をできるだけ先延ばしすることと、不要な在庫は持つなと」

 多くのグループ会社があり、キャッシュリッチなところもあれば、そうでないところもある。
「スリランカとかフィリピンとか、そうしたところの中小企業の会社はキャッシュをそんなにたくさん持っていませんから、無くなったら、しっかりとグループの中で資金が回るようにグループファイナンスをしています。そういう所をしっかりと見る」と大谷氏。

 6つの地域統括会社がグループファイナンス機能も果たす─というガバナンス体制を敷いてきたことが、今回のコロナ禍で効いた。

ロックダウンの上海では工場に寝泊まりして生産

 実際、各地域の縫製メーカーは辛くて、厳しい状況にあった。欧州や中国の主要都市ではロックダウン(都市封鎖)が続いた。それが解除され、2021年度にオーダーが回復したときに平常時に合わせた生産再開へ向けて、各国の縫製メーカーは動き出した。

 しかし、コロナ禍は長丁場の戦いとなっていった。各国政府も試行錯誤というか、思い切った措置に出るところもあった。
 例えば中国・上海市。今年3月下旬から6月1日までロックダウンに踏み切った。感染者の出ている地域は完全に封鎖する─という厳しい措置。

 YKKグループの現地工場に勤める従業員も当然、自宅と工場の間を通勤できなくなる。現地の従業員たちはどう行動したのか?
 YKKは上海に2つの工場を持ち、従業員数は約1800人。
 ロックダウンの約2カ月半、上海の従業員たちは工場内に寝泊まりし、操業を続けた。
「これは強制じゃないんです。そうやったほうがいいと中国人の幹部の方が言ってくれて」
 現地法人の幹部としては、工場で寝泊まりして、体でも壊されたら、それこそ本末顚倒になる。簡易ベッドを約1200用意し、睡眠を十分取りながら仕事に当たったという。

 食料はどう確保したのか?
 ロックダウン中の上海市では、自宅待機者の中には、個人で
手当てできにくい状況が続き、
〝食料争奪戦〟の様相もあった。50人以上の人が集まり、集中購買しないと、食料が届かないといった現実。
 YKK上海工場でも、集中購買を実施し、これを上海市当局が支援してくれたという経緯。

 工場単位でのまとめ買いということだが、これも「日頃から現地法人のトップが社員に対して、しっかりした福利厚生をやっていたし、そういう企業姿勢を示してきていたと。ですから、いざというときに市当局も助けてくれるのかなと思いましたね」と大谷氏は感想を語る。
 このほか、ベトナムでも昨年の夏から秋にかけてロックダウンが行われた際、現地の従業員たち(約1000人)が約1カ月間、工場に寝泊まりし、操業を続けた。

 こうした海外の現地法人の従業員たちが自発的に、今、自分たちが何をやるべきかを考え、実行に移している現実を目の当たりにして、大谷氏は「うれしいです」と心の内を明かし、「これは創業社長(吉田忠雄氏)がよく言っていた森林経営の1つじゃないかと思います」と語る。

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本誌主幹 村田博文

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