2022-10-21

【政界】「私が先頭に立つ」と意気込む岸田首相 トップダウン型の政治手法へ転換か

イラスト・山田紳

 岸田は参院選までは「安全運転に徹する」との姿勢を貫いてきた。重要な政治決断も、様々な意見を聞きながら国民世論の動向を慎重に見極め、最終段階で判断をした。世論の風向き次第で前言を撤回することも厭わなかった。ボトムアップ型の政治手法といえる。

 例えば、今年2月の北京冬季オリンピック開会式に政府代表団派遣を見送ることを表明したのは、米国や英国などの「外交ボイコット」表明から大きく遅れた昨年12月24日のことだった。しかも米国などが反発した中国の新疆ウイグル自治区などでの人権問題には触れず、「外交ボイコット」という言葉も使っていない。

 また、新潟県の「佐渡島の金山」を世界文化遺産候補として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦することを決めたのも推薦期限の今年2月1日の直前だった。一時は韓国側の反対を受けて推薦見送りを固めていたが、自民党内の「弱腰」批判を受けてのことだった。このときは野党からも「遅いし、ブレるという岸田政権の姿を表した象徴的な出来事だ」(立憲民主党幹部)などと批判された。

 さらに、新型コロナウイルスのワクチン接種の間隔でも、「原則8カ月以上」を6カ月に短縮することを決めたタイミングも遅れ、オミクロン株の感染拡大の一因とされた。

 それでも内閣支持率の下落につながることはなかった。

 そんな岸田は参院選後から「私自身が先頭に立つ」という言葉を良く発信している。2年目に入る政権運営は安全運転から脱し、自らが牽引する強いリーダーシップを発揮すべきだと判断しているようだ。

 10月3日の所信表明演説では、来年5月に先進7カ国首脳会議(G7サミット)を広島で開催することを踏まえ、「私自身が先頭に立ち、普遍的価値に立脚した国際的な規範や原則の維持・強化、地球規模課題への取り組み、そして国民の命と暮らしを断固として守り抜く」と訴えた。

 訪米中の9月22日にも広島サミットに触れつつ、「国際社会の諸課題について私自身が先頭に立って議論を主導していく」と述べている。また、旧統一教会問題に国民の厳しい視線が注がれていることから、「私が先頭に立ち、政治への信頼回復に取り組まなければならない」と繰り返す。

 もちろん参院選前も「まなじりを決し、戦い抜く。私自身がその先頭に立つ」と自民党総裁として選挙への決意を語ることはあった。だが、その他は「日本が先頭を走り、アジアの皆さんもしっかり牽引していきたい」(3月の参院予算委員会)、「わが国は新たな官民連携の構築によってグローバルな経済社会変革の先頭を走る」(1月の年頭記者会見)など、国際社会の中での日本の立場を主張するときくらいだった。

 もっとも、新型コロナ対策を巡って「必要な方に検査キットが届くよう私が先頭になって取り組みを進めていきたい」(2月の衆院予算委員会)、「ワクチンの確保についても私自身、先頭に立って強い覚悟で臨んでいきたい」(昨年12月の衆院予算委員会)などと決意を語る場面もあったが、多くは「(オミクロン用のワクチンを)早く確保するため首相自ら先頭に立って交渉して欲しい」などと決意を質されてのことだった。

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