2022-12-28

【初の外国人社長】三菱ケミカルグループ・JM・ギルソンの「サステナブル戦略」、CO2原料化など推進

ジョンマーク・ギルソン・三菱ケミカルグループ社長



 

日本の長年の課題「石化再編」はなるか 

 ここまでの間、ギルソン氏は自社にある全ての事業の見直しを進めてきた。その際には「事業が成長しているか・成長させることができるか」、「自らに能力がある事業かどうか」、そして「サステナブルであるかどうか」という3つの基準で判断。 

 特に3つ目の基準は、脱炭素に向けて貢献できる事業なのか?を問うもの。「1つ目、2つ目の基準はよくても、3つ目の基準をクリアできない事業があった」(ギルソン氏) 

 その見直しの中でプラスチックの原料となるエチレンなどを生産する「石油化学事業」、製鉄用コークスなどを生産する「炭素事業」を「切り出し」する方針を決めた。これは21年12月に打ち出された。 

 特に石化事業の分離に対しては、業界内に驚きが走った。なぜなら、石化再編は化学業界にとって「古くて新しい課題」であり、なかなか進んでこなかったという現実があったからだ。 

 石化再編の必要性が叫ばれたのは、汎用品が多いことで収益性が低いこと、原料価格の動向など景気に左右されやすいこと、そして日本の人口減少で市場が縮小する恐れが強いことなどがあった。経済産業省も長く再編を促してきた。 

 その流れの中で、三菱ケミカルは茨城県鹿島で2基あったエチレンクラッカーを1基に、三菱ケミカルと旭化成が共同運営する岡山県水島で、同じく2基を1基にしてきた。 

 また、化学メーカーが集積する千葉でも丸善石油化学、住友化学、三井化学の合弁「京葉エチレン」から三井化学が離脱、住友化学が自社のエチレンクラッカーを停止して京葉エチレンからの調達に切り替えるという取り組みを進めてきた。 

 それでも、日本にエチレンセンターが多すぎるのでは?という声はやまない。ただ、再編に対しては、他の化学大手首脳からは様々な声が出る。 

「それぞれの会社でエチレンクラッカーの位置づけが違い、『多すぎるから減らそう』という単純な話では済まない」(総合化学大手首脳)、「エチレン生産が事業と結びついている。地域との関係もあり、自社運営を続けていく」(別の総合化学首脳) 

 対してギルソン氏は「今後、エネルギー自体を転換、トランジション(移行)していかなければならない時。その観点で見た時に石化事業、炭素事業の切り出しを決めた。必要があれば他社とも融合させていく。それによって、残りの事業に注力していく」と話す。 

 ただ、炭素事業の切り出しは方向性が固まっているものの、石化事業については、当初は売却も含め、グループから完全に切り出す方針だったものから、その後台頭した「経済安全保障」の観点で日本に必要だということなどから、少し修正が加えられているようだ。 

「石化事業は、一部資本を残すことを考えている。ただ、その時には出資比率は50%以下に抑えたい。いいパートナーを見つけて、十分な規模を持ち、その事業自体が自分の足で立てる強い会社となって自立していく形も考えている」とギルソン氏。 

 前述のように、長年石化再編が進んでこなかったことに対してギルソン氏は「業界の誰もが『何とかしなければいけない』と思っている状況。これは25年前の鉄鋼業界と同じ」と指摘。 

 鉄鋼業界では02年に川崎製鉄とNKKの統合でJFEホールディングスが誕生以降、再編が加速。12年には新日本製鉄と住友金属工業の統合で新日鉄住金(現日本製鉄)が誕生、現在高炉メーカーは神戸製鋼所を加えた3社に集約された。ギルソン氏は、化学業界でも石化事業を集約させ、環境変化に耐えられる企業体を生み出したい考え。 

「私がなぜ、石化再編に向けた発信をしたかといえば、自社の事業見直しに適用した3つの基準に照らして考えた時に、業界自体も再編しなければならないと考えたから。私達は日本で最大の石化事業を持っている企業として、再編プロセスを推進していく責任がある」 

 他の化学大手などは前述のように各論では様々な意見を持つが、再編が必要だという認識では一致しているとし、経済産業省も同様だとする。 

「各社がリストラをしなければいけないところまで待ってはいられないし、その段階になったら遅すぎる。積極的に、先手を打つ形で行動を起こしていきたい。その中で1社でも2社でも、強い会社が生まれればいいと考えている」 

 今後はギルソン氏が投げた「ボール」に他の化学メーカーがどう応えるかが問われる。 

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