2023-05-09

【産業競争力を高める!】三井不動産新社長・植田俊の「需要創造を図る産業デベロッパーとして」

植田俊・三井不動産社長




日本橋をライフサイエンス、そして宇宙産業の拠点に!

 具体的には、東京・日本橋での〝ライフサイエンスの街づくり〟である。2016年(平成28年)、三井不動産がアカデミア(大学、研究機関)と産業界が連携できるコミュニティをつくろうと設立した『LINK―J』(一般社団法人)。ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパンの略で、発足して7年経った現在、会員数は670社にのぼる。

 産業とアカデミアが力を合わせ、文字通り日本中の力を結集して、ライフサイエンスの創造的発展を期そうというもの。再生医療、個別化医療、創薬、医療機器、ヘルスケアをはじめ、予防・未病に関する研究成果を持ち寄り、イノベーションを進めようという動きである。

 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのテクノロジーと人との融合、さらには、人間拡張技術、〝Human Innovation(ヒューマン・イノベーション)〟といった言葉が関係者間で飛び交う。

 薬の街である大阪・道修町と東京・日本橋との連携シンポジウムなど、年間のイベント回数は2022年では計842回にのぼった。1日に2回以上開催されている計算である。

 この7年間に、東京・日本橋に新たな拠点を構えた企業や大学・研究機関は約160社。このうち100社がスタートアップ(新興企業)という構成だ。

「ええ、新たにそういうテナントさんが日本橋にライフサイエンス関係ということで集まって来ていただいております。それこそ、皆さんに非常にかわいがっていただいて、大きなコミュニティに今なっています」

 植田氏はこう語り、産業デベロッパーとしての三井不動産は〝場〟の提供を、LINK―Jは〝コミュニティ〟の提供を担うという役割分担だ。


『妄想、構想、実現』のプロセスで日本再生を

 東京・日本橋は江戸期から、5街道の起点。奥州、日光街道に加え、中山道、甲州街道、そして東海道の5街道。さらに今後海外との交流を一層深め、「宇宙との繋がりを拡大していこう」と今、「6本目の街道づくり」が進む。

「世界中の人類が抱える課題ですね。ライフサイエンスと宇宙。非常に総合力を必要とする産業に着目して、われわれもお手伝いしていきたい」

 第6番目の街道として、宇宙との繋がりを挙げるあたり、これは少々、妄想に近いという見方もあるかもしれないが、植田氏は真剣そのもの。

「わたしは日頃から、『妄想、構想、実現』という言葉を使っているんですが、今、日本に欠けているのは妄想力。こんな事が今できたらいいなあと。せっかく、漫画やアニメのドラえもんなどソフト力があるのに、全体的に妄想力が足りていない。妄想に大義があれば、皆さんがそうだね、面白いねとなり、多くの人が集まって来て、構想になり、実現に向かっていくと」

〝妄想〟から物事が始まり、それがいろいろな視点や角度から考察され、骨太の構想に昇華し、最終的に実現に向かっていくというプロセス(経路)である。

「われわれのライフサイエンスや宇宙もそういうプロセスの中で、妄想から始まりました。日本橋がライフサイエンスの聖地になればいいよね、という妄想から始まっているんですが、それが現実になりつつある」

〝6本目の街道〟として登場した宇宙領域では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との提携も実った。

「これも一日、一日、構想となり、いずれ実現に向かっていくと信じて、われわれは取り組んでいるということです」

『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』─。19世紀のSF作家で『海底2万マイル』を書いたジュール・ヴェルヌ。植田氏はこのジュール・ヴェルヌの言葉が好きだという。

「SFは昔から好きで読んでいましたが、ジュール・ヴェルヌの言葉に注目したのは、わたしがライフサイエンスに関わり始めた、この10年位で共感する言葉として気が付いたからなんです」

 人類の想像力は果てしなく広がる。その意味で、将来の展望に期待がかかるが、一方でわたしたちは厳しい現実にも直面。

本誌主幹 村田博文

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