2023-05-08

三菱マテリアル・小野直樹社長に直撃!「安全保障、環境問題が重くのしかかる中、『循環をデザインする』をキーワードにした理由」

小野直樹・三菱マテリアル社長




日本の地方に事業所を持つ意味

 ─ これも主力事業である超硬工具は、需要先である自動車の電動化などの動向に左右される面がありますね。

 小野 超硬の切削工具の大きなマーケットはやはり自動車で、しかもエンジンです。この需要はいずれ、xEV化で減っていくことになります。ですから数年前から、航空・宇宙や医療分野、様々な産業で使われる金型へのシフトを進めています。さらに、「削る」仕事は、例えば再生可能エネルギーの風力発電用の部材など今後も出てくると思います。さらに金属だけでなく強化プラスチックやチタンといった「難削材」など、削る対象を広げる技術開発ができるかが、今後の勝負所です。

 ─ 2050年の脱炭素は全産業的な課題ですが、三菱マテリアルでは再生可能エネルギーとして地熱発電に注力していますね。

 小野 地熱発電は、秋田県、岩手県など東北地方を中心に取り組んでいます。開発にあたっては、地元との共生が必要で、良好な関係を保ちながら進めています。

 現在、24年の運転開始を目指して、岩手県で安比地熱発電所を建設中で、その次の開発地候補の調査も進めています。今後は、このペースを上げていく必要があるとも考えており、この中計でも地熱発電事業など脱炭素社会の貢献に300億円の投資を計画しています。

 ─ 歴史的に日本の地方に製錬所がありますが、これからの地域活性化の観点で、日本に事業所があることの意味をどう考えていますか。

 小野 元々、製錬所の場所は国内鉱山の立地から来ています。その後は銅精鉱を輸入する関係で海外立地が求められるようになりました。その意味で自由に、どこででもできるというビジネスではないということは言えます。その地域で雇用を生み、確保して事業を進めていくかを考えてきたわけですが、大きく言えば日本の国づくりにつながる話です。地域活性化の観点でも意義あることだと思っています。

 今後、働き方は変わっていくのかもしれませんが、地域に根ざした事業を進めることで、その地域で生まれ育った方々に働きたいと思っていただくことも大事なことです。

 ─ 近年は経済安全保障の観点で改めて国内立地を進める企業も出てきています。

 小野 確かに近年は「重要な事業は日本で」という流れも出てきています。当社が手掛けるタングステンなどのレアメタルも「重要鉱物資源」とされているんです。その意味で、非鉄金属を取り出すことができる設備の重要度が増しているということが言えると思います。

 また今、経済産業省や環境省はアジアなどから廃棄された電子機器を日本に持ってこようとしていますが、そうした考えが出てくるのも、日本に処理できる設備があるからです。

 ─ セメント事業も廃棄物を処理できるという意味で「循環」の役割を果たすものですね。

 小野 セメントの国内需要は、かつてのピークだった1990年代に比べれば半分以下になっています。それが再び増えるということはないと考えています。

 ただ一方で、国土強靭化、災害の激甚化、インフラ老朽化の観点で必要性があることも事実です。量は減りましたが、建設基礎資材としての役割は引き続きあります。

 そしてセメント工場は多くの廃棄物を受け入れて、それを原料にしています。しかも、二次的廃棄物は出ません。受け入れて処理したものは全て、製品の中に取り込まれているということですから、その役割も非常に大きいものがあると思います。

 量が減少したのを見て、「セメントは輸入すればいい」という意見が出ることもありますが、それは一部分だけを捉えた議論です。例えば石炭火力発電から出てくる石炭灰の7割はセメントの原料として利用されます。建築基礎資材の供給という「動脈」と、廃棄物を原料として製品にしていく「静脈」の役割は、規模は縮小しても変わらず必要だと考えています。

 ─ 18年に社長に就任し、改革を進めてきたわけですが、現在までの手応えは?

 小野 私だから改革をしたということではなく、それが求められる状況の中で私自身が社長のポジションに就いたという理解です。まずは資源配分を手の届く形にしていく、そのために事業ポートフォリオを整理、最適化してきました。2030年に向けたプランニングはできましたが、ここからが大事です。いかに目標を達成していくかが問われます。

 2年前、当社は150周年を迎えましたが、先人の努力に感謝し、歴史に誇りを持つことは重要です。一方、150年続いたからといって、その後が安泰かというとそうではありません。次の歴史は自分達でつくっていかなければいけないのです。

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