2023-05-19

【政界】維新の伸長で高まる改憲の機運 岸田首相は指導力を発揮できるか

イラスト・山田紳



 しかし、岸田の憲法観や改憲への意欲は、いまだにはっきりしない。1月の施政方針演説では「この国会において、制定以来初めてとなる憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待する」などと短く述べるにとどめた。

 2月の自民党大会でも、同党の4項目には触れたものの、「時代は憲法の早期改正を求めている。野党の力も借りながら、国会での議論を一層積極的に行っていく」と具体的なプロセスには踏み込まなかった。

 統一地方選を前に、公明党に配慮した面はあるのだろう。「天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定めた憲法第99条を根拠に、首相としての振る舞いを安倍が野党から批判されたことを意識しているのかもしれない。

 ただ、それを岸田の弱気と決めつけるのは早計だ。岸田が曖昧な態度に終始する間にも、改憲に向けた地ならしは進んでいる。

 政府は昨年12月に閣議決定した安全保障関連3文書のうち「国家安全保障戦略」と「国家防衛戦略」に、敵のミサイル発射基地などを叩く反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した。専守防衛の考え方に変わりはないとしたものの、事実上、従来の防衛政策の大きな転換だ。にもかかわらず、世論は冷静だった。

 安倍が集団的自衛権の行使容認に踏み切った当時とは隔世の感がある。急速な軍備拡張を進める中国や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への不安が、国民の意識を変えつつあるようだ。

 日本維新の会、国民民主党、衆院会派「有志の会」は3月30日、憲法に緊急事態条項を設ける改正条文案を発表した。

 それによると、国会議員の任期を延長する要件として①武力攻撃②内乱・テロ③自然災害④感染症のまん延⑤その他これらに匹敵する事態─を規定。

 広範な地域で国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難なことが明らかな場合、衆参両院の出席議員の3分の2以上の賛成による議決で、衆院議員と参院議員の任期を延長できる。ただし、延長は6カ月を上限とする。

 先述した自民党の条文イメージは、緊急事態として「大地震その他の異常かつ大規模な災害」を想定し、特例による任期の延長幅は明示していない。ウクライナ問題などを踏まえて「武力攻撃」などを要件に加えた3党派の条文案は、自民党案をさらに一歩進めた内容と言える。

 昨年3月の衆院憲法審では、自民党もウクライナ侵略のような国家有事を緊急事態の類型に含めるべきだと主張していた。

 公明党副代表の北側一雄は今年3月23日の衆院憲法審で、①国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難な場合、内閣は選挙困難事態を認定②認定には国会の承認が必要③選挙期日の延期は最大6カ月─という見解を表明した。そう考えると、自公両党が3党派の条文案に歩み寄る余地は十分にある。

 3党派は条文案を4月6日の衆院憲法審に資料として提出。日本維新の会代表の馬場伸幸が「意見集約のたたき台になり得る」とアピールすると、自民党の新藤義孝は「これまで審査会で討議されてきた内容を反映したものであり、建設的かつ真摯な議論の結果として歓迎したい」と応じた。


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