2023-07-10

第一生命新社長・隅野俊亮の「新・生保戦略」「投資初心者に寄り添うコンサルを」

隅野俊亮・第一生命保険社長




ネット銀行の開始も「資産形成」の一環

 とはいえ、今の時代、生命保険商品だけで顧客との接点を維持するのは難しい。そこで、顧客接点を増やすべく、様々なサービスの導入を進めている。

 例えば、22年にはペット保険大手のアイペットホールディングスを買収し、ペット保険に本格参入。他にも「iDeCo」(個人型確定拠出年金)や「自転車保険」など、顧客の幅広いニーズに応えるような商品を提供しようとしている。

 隅野氏は「私自身、今日的なサブスク(定額課金)モデルの成功要素は2つあると見ている」と話す。1つは「常時接続」、もう1つは「常時進化」だという。

 24時間365日、顧客がスマートフォンなどを通じて、第一生命のサービスにアクセスできる状態にあること、そして少しでもいいから常にサービスやアプリが進化していることで、顧客の心を動かすことが大事だということ。

 23年3月から、住信SBIネット銀行と楽天銀行が提供するBaaS(Banking as a Service=サービスとしての銀行)を活用してネット銀行事業に参入したが、この事業も「常時接続」の1つ。

 第一生命グループは顧客に提供する事業領域を「保障」、「資産形成・承継」、「健康・医療」、「つながり・絆」という4つの体験価値として定めているが、このネット銀行は「資産形成・承継」の強化に当たる。

 隅野氏は資産形成への取り組みを「極めて有望な分野」と話す。実際、このネット銀行以外にも資産形成分野強化への取り組みは始まっている。岸田文雄政権による「資産所得倍増プラン」、足元の株高、さらには長引く低金利を受けて、日本国民の間で資産形成への意識は、かつてないほど高まる。

 ただ、この分野には銀行や証券会社など、競合が多い。その中で生命保険会社として、どのように対抗していくのか?

「生保ならではの保険機能を備えた商品で、税制上の優遇メリットといった良さを生かすのは一つ。他にも保障と資産形成は密接不可分なつながりがある。そこに我々の強みを発揮できると思っている」(隅野氏)

 そこで強化したのが、顧客の資産形成に向けた「コンサルティング営業」。「資産形成・承継・相続アドバイザー」という社内資格を設け、最終的には1000名を超える規模の部隊に育成する。今年度はそのうち、まず400名を育成、徹底的に金融リテラシーを学んでいる。

 この仕事を担うのは、大学を卒業して入社し、大企業や官公庁に勤める顧客を担当する「ライフプロフェッショナル職」。「入口の段階で一段の資質を持つメンバーを真っ先に教育している」。彼女らは資産形成向けの保険だけでなく投資信託や前述のiDeCoなどを対面で販売していく。

 また、第一生命グループには第一フロンティア生命という、資産形成向けの保険商品を扱う会社がある。ここに商品を追加することで、顧客の資産形成ニーズに応えていく。

 重要なのは、今後初めて資産形成に取り組むという層の受け皿となることができるかどうか。千葉銀行など地方銀行が、リスクが高いとされる「仕組み債」を、きちんとした説明をせずに販売し、顧客に損失を与えたとされる問題は記憶に新しいが、投資初心者はどういった商品を買えばいいのかも含め、コンサルを求めている。

「我々のメインのターゲットとするのはマス層。必ずしもご自身で株や債券の売買をした経験のない、あるいはやったことはあるけれど、まだ詳しくないといった方々に寄り添うのが、我々のビジネスモデルなのかと思っている」と隅野氏。他の生保では本格的に取り組んでいるところはまだないだけに、差別化にもつながる。

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事