2024-03-11

翁百合・日本総合研究所理事長「企業は、企業価値向上と社会課題解決の『二兎を追う』成長戦略の実行を」

翁百合・日本総合研究所理事長

「日本企業は、変わるいいタイミング」と指摘する。2023年に賃上げが実現し、「成長と分配の好循環」が実現しそうな機運が高まる。ここで「人への投資」や国内投資を進め、この流れを確かなものにできるかが問われる。ただ、日本には課題も山積。高齢者の医療費は増大する一方で「給付」が過剰でないかという議論もある。翁氏は「将来も安心な社会保障の実現には、給付面の改革が必要」として根本議論の必要性を説く。


2024年は「改革の年」に

 ─ 金融環境、地政学リスク、コロナ禍と混沌とした状況ですが、2024年の世界及び日本経済をどう見通しますか。

 翁 欧米はインフレで金利を引き上げ続けてきましたから、今年はその影響がさすがに出てくると見ています。米国は金利引き下げ局面になるでしょうし、欧州は経済状況がよくありません。ですから、世界経済全体としては少しスローダウンするのではないかと見ています。

 日本はコロナ禍からの回復が遅く、インフレ傾向はあるものの、金融緩和を継続しています。24年は、1%強程度の成長をすると見ています。

 ただ、今年は不確実性が高い年だと思います。台湾の総統選挙もありましたが、今後世界各国で選挙が行われます。何より、秋の米大統領選挙がどうなるかで世界が大きく変わる可能性があり、多くのリスクがある。

 また、ロシアのウクライナ侵攻が続き、中東でも紛争が泥沼化しつつあるなど、地政学リスクは引き続き高く、その意味でインフレ圧力はまだあります。

 ─ 厳しい環境下ですが、日本の経営者はどういうスタンスで臨むべきだと考えますか。

 翁 日本企業は、変革するいいタイミングだと思います。2023年に賃上げが実現し、物価と賃金の好循環に入る可能性も出てきています。

 また、人手不足が深刻になっていて、それゆえに人への投資、DX(デジタルトランスフォーメーション)をしっかり進める必要がありますし、サプライチェーンの組み換え、GX(グリーントランスフォーメーション)も含め、国内投資を進める機会でもあります。

 そして東京証券取引所の「資本コストと株式を意識した経営」という要請をきっかけに「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」問題がクローズアップされました。経営改革、ビジネスモデル変革で市場の期待に応え、同時に賃金を上げて、従業員が働きがいを持てる企業になって初めて、しっかり成長できるということです。まさに改革の年になるのではないかと見ています。

 ─ 賃上げに関して、中小企業の中にはなかなか上げにくいところもあると聞きます。

 翁 確かに中小企業は大企業に比べて厳しいですが、アンケート調査を見ると、人手不足が深刻化する中で、賃金を上げていくと答えているところが多くなっています。中小企業こそ、潜在的能力を活かして、いい人材を採用していかねばなりませんから、賃金を上げる方向になることを期待しています。ここは分かれ目になると思います。

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