2022-04-19

【サイバーエージェント・藤田晋】の事業観『何が起きてもの気持ちで、しかし思い詰めずに』

サイバーエージェント社長 藤田 晋氏

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ネットテレビの『ABEMA』をやり抜く!

 同社の経営の3本柱は祖業のネット広告とゲーム、メディア。全売上に占める比率はそれぞれ45%、39%、11%という数字。
 ネット広告は手堅く収益をあげ、ゲーム分野では、前期は特にスマホゲームの『ウマ娘 プリティーダービー』が大ヒット。ゲーム事業で前期の営業利益は前々期の6倍もの964億円をあげた。全体の営業利益の9割を占める程の好調ぶり。
 さすがに、今期はその反動もあって、営業利益は減少する見通しとなっている。

    
 <サイバーエージェントが入るAbema Towers(アベマタワーズ)>

 3本柱の中で、メディア事業は赤字が続く(前期は151億円の営業赤字)。2016年4月に動画配信サービス『AbemaTV』(現ABEMA)を開始。24時間稼働の日本初のインターネットテレビという触れ込みでスタートした。以来6年が経ち、『ABEMA』の累計赤字は1000億円とも言われるが、年間の赤字幅は徐々に縮小しつつある。「テレビの未来を創るというか、テレビの再発明を目指してやっている事業」と藤田氏は同事業に執念を燃やす。

 前述のように、ネット広告は連続性のある成長を実現している。現に、日本全体のネット広告費は2021年に2兆7052億円(前年比21.4%増)となり、既存のマスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費(2兆4538億円、前年比8.9%増)を初めて抜いた。
 ネット広告は着実な伸びが期待できる半面、ゲーム事業はどうしても浮き沈みが伴う。そうした中で、今後大きな収益事業として期待されるのがメディア事業という藤田氏の読みである。

「グーグルやフェイスブックもそうだし、日本のヤフーや楽天もそうなんですが、メディア事業で大きく成長するというのが、われわれとしても最後の必要な部分だと思っているんです」
 藤田氏はメディア事業の可能性についてこう述べ、「ABEMAを始めて5年、もうすぐ6年なんですけど、本当に10年掛かりで立ち上げると決めて始めたもの。そういう意味では、半分経過して、ほぼ想定通り、地盤を固めながら成長を遂げている」と総括。もともと、藤田氏は中長期視点で事業を捉え、手を打っていくタイプの経営者。短期志向で事業を突如止めたり、売ったり買ったりする人ではない。

 日本初のメディア文化を創る─。「そのために頑張ってきたんですけど、やはりメディアというのは視聴習慣だと思っています。朝起きて新聞を読むとかね。もう同じ事をやり続けて、普及するまで辛抱強く頑張るというのが基本戦略です」と言う藤田氏である。

新旧産業の橋渡し役として

 確かに、『ABEMA』事業は、新しい産業を創造する1つの事業領域としても注目されている。
 今を時めく動画配信サービスだが、これに火を付けたのは米・ユーチューブやネットフリックス、アマゾンといった外資勢。日本国内でも独自の勢力をつくらなければと素早く動いたのが藤田氏であった。
 これらの有力外資勢と渡り合うには、動画配信の中身、つまり質のいいコンテンツをどうつくり、配信していくかが大事な課題になる。そのコンテンツをつくるパートナーとして、テレビ朝日が浮上した。

 また、2007年、米アップルのアイフォン(iPhone)発売以来、スマートフォンは人々の間に急速に浸透し、動画配信サービスを求める視聴者も「テレビデバイスからスマートフォンに移る」と読んだ藤田氏は、『ABEMA』事業を構想した。
 藤田氏は、テレビ朝日の放送番組審議会の委員を5年ほど務めた経験もあり、会長の早河洋氏に提携を持ちかけた。
 日本国内のテレビ放送は1953年の開始以来、60年以上の歴史があり、成熟している。若い頃、名プロデューサーとして、報道番組をはじめ、各番組作りに手腕を発揮してきた早河氏は、この藤田氏の提案を前向きに受け止めた。
「映画からラジオ、そしてテレビの時代に代わり、テレビが様々なコンテンツを生み出してきたのは事実。しかし、昨今は若者のテレビ離れが進んでいるといわれ、いいタイミングでインターネットテレビという全く新しいことに関われる機会になった」という早河氏の対応であった。

 藤田氏の経営者としての資質で注目されるのは、日本のネット事業の創業者の1人でありながら、既存産業と対話ができる
というところ。
 言ってみれば、新しい産業と旧来の産業の橋渡し役である。

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本誌主幹 村田博文

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