2023-04-18

エア・ウォーター・豊田喜久夫会長CEOに直撃!「新設した『ユニット長』にM&Aした会社のトップを据えた理由」

豊田喜久夫・エア・ウォーター会長CEO




製品値上げ、賃上げは日本のために必要

 ─ ところで、産業界全体で賃上げ、製品価格値上げの議論が高まっていますが、どういう考えを持っていますか。

 豊田 私はどちらも上げるべきだと思っています。コストアップの問題よりも、日本は世界と比べて安すぎます。

 また、営業面で考えても、値上げこそが営業担当者の腕の見せ所であり、最大の教育機会です。例えば、日本製鉄がトヨタ自動車との交渉で鋼材値上げを実現しましたが、根を詰めて、理論的に説明して納得してもらったのだと思うんです。我々も、きちんとお客様に説明し、納得していただける能力を付けなければなりません。

 賃上げに関しても、当社はこの4月に初任給の見直しを含め、全体で6%の賃上げを行います。こういう時こそ、企業は賃上げのためにどうしたらいいかを考える必要があります。

 労働分配率については業種によって違います。また、全体の人件費をどうコントロールするか。その時には人手の問題も出てきますが、我々のようにグループになっていると、不足しているところに人材を回すことができます。

 何よりも、我々経営がグループ各社に「何%引き上げなさい」といったことは言わないようにしているんです。それは自分達で考えて欲しいからです。

 ─ かつての日本企業での評価は年功序列でしたが、今は能力で評価する時代になってきていますね。

 豊田 これは難しい問題です。定量的評価が主流になってきていますが、営業担当者は数字で出ますからわかりやすくても本社部門をどう考えるか。これもグループ内にはみんなで考えていこうと言っています。

「人」をどう育てるかというと「評価」と「異動」です。どんどん新しいところに異動させて、いろいろなことを学んでもらい、自分で仕事をつくることができるようになって欲しい。

 ─ 以前は「愛社精神」などと言われましたが、近年はそうした言葉もなくなってきていますね。

 豊田 終身雇用の時には大事だったかもしれませんが、今はあまり考えなくてもいいのではないかと。ですから己を磨き、自分の好きなところで、好きな仕事をする時代です。

 そして私は、辞めていく人には「またおいで」と言って送り出すんです。出入りは自由で、実際に戻ってきた人もいます。そのためにも、やりたいことを考えることです。自分の夢を持っている人は育ちますよね。

 私自身、会社で出世したいと思いながら仕事していませんでしたが、出世するということは仕事で自分の夢を叶えることにつながります。私は常に、そのポジションに就いたら、これをやりたいと思いながら仕事をしてきました。自分の好きなことができるのは楽しいですよね。

 ─ 豊田さんから見て、どういう人が伸びていますか。

 豊田 よく勉強する人です。例えば、その部門に配属されたら、まず部門のことを歴史から勉強し、データ化する必要があります。データ化すると必ず問題が出てきますから、解決に地道に取り組むことが大事です。それを何となくの解決策ができた段階で走り回るのでは駄目です。それはただ走り回っているだけになってしまう。

 私は工場の現場に行くこともあるわけですが、行くとみんな私に背中を見せて、一生懸命仕事をしているフリをするんです。そうした時、私はまず道具箱を開けます。道具箱が綺麗だと、きちんと仕事をしていることがわかります。

 また、高い場所から現場を見ることもありました。上から見たり、下から見たりすると、人の動きが大体わかるからです。工場で作業する時には両手を広げた範囲に収まるのがベストです。それを離れた場所に取りに行くなど無駄な仕事をしていることがある。

 ─ そうしたことも現場を見ることでわかるわけですね。

 豊田 ええ。また、みんなとにかく利益を出さなければという思いがあります。そうした時、例えば外注に出すことがあります。社内の人間でやると1時間6000円かかるけれども、3000円でやってくれる会社があるからというわけです。これが大きな間違いです。

 なぜなら、6000円の人は仕事がなくなるので暇になります。だからといって、そのままにしておくわけにはいきませんから、出来の悪い管理職は時間潰しのような仕事をさせてしまうんです。

 そうした価値のない仕事をしている人は元気がありません。ですから、先程お話したように私が工場に行った時には背中を向けてしまうわけです。

 そこで私は、必要のない外注をやめ、内製化を進めました。その分仕事をどんどん取ってくることで忙しくなりましたが、その後私が現場を回ると正面を向いて「おはようございます」と挨拶してくれるようになったのです。

 ─ やはり仕事にはやりがいが大事だと。

 豊田 そうです。私が現場に行く時には製品が出来てくるのを見るわけではないと、みんなにはっきり言っています。私は人の動きを見に行くんです。

 エア・ウォーター防災の社長時代には社内に「豊田塾」をつくりました。係長を45人選んで、毎週金曜日に私や各部門のトップが説明し、土曜日には彼らに部門の課題についてのプレゼンをしてもらいます。その課題の解決策を1年かけて完成させるんです。

 塾に参加した人達の頑張りもあり、卒業生の多くは役職が上がります。その姿を見ると上司は「遊んでいてはいけない」といって頑張るようになりました。また部下も「次は自分も入りたい」という希望を持つようになったのです。それを狙って中間層である係長を選んだという面もあります。

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